5回椅子立ち上がりテスト(5STS)のタイムが語るもの
5回椅子立ち上がりテスト(5STS)は、椅子から立ち上がり→着座を5回繰り返す所要時間を測定する簡便な評価法です。下肢筋力・バランス能力・固有受容感覚(身体位置感覚)などを反映し、高齢者の転倒リスクや日常生活動作(ADL)の低下を予測する指標として、臨床・地域・在宅リハビリの幅広い場面で活用されています。
標準的な実施方法:正しい手順
- 椅子の高さは約40〜42cm程度を使用する。
- 被験者は両足を肩幅に開き、両腕は胸の前で組む(手で支えない)。
- 合図「スタート」で、できるだけ速く立ち上がりと着座を5回繰り返す。
- 5回目の着座が完了した時点までの時間をストップウォッチで測定。
- 原則として手を使わない。1〜2回の練習の後に本測定を行う。
- 椅子高・足位置・腕位など測定条件はできる限り統一する。
手順の標準化により再現性・信頼性が高まります。短時間で実施でき、特別な機器を必要としないのが利点です。
どのくらいの時間なら要注意?5STSの基準値と解釈
一般に測定時間が長いほど、転倒リスクや下肢筋力低下の可能性が高まると考えられています。レビューやメタ分析で広く用いられる目安は次の通りです。
- 15秒以上:転倒リスクが高い(リスクが約2倍とする報告あり)
- 12秒以上:転倒リスク上昇の可能性(旧来の基準)
- 10秒以上:ADL低下・QOL低下の兆候
判定は対象者の年齢・基礎疾患・既往歴・転倒歴などの文脈と合わせて行いましょう。
年齢別・性別の参考値(標準椅子高での目安)
5STSは年齢・性別で所要時間が変化します。以下は代表的な報告値の要約です。
年代別平均値の目安(40〜45cmの椅子)
- 65〜69歳:7.7 ± 1.9 秒
- 70〜74歳:8.3 ± 2.0 秒
- 75〜79歳:8.5 ± 2.1 秒
- 80歳以上:9.7 ± 2.5 秒
年齢別・男女別の一般的な傾向
年代 | 男性(秒) | 女性(秒) |
---|---|---|
65〜69歳 | 7.5〜8.5 | 8.5〜9.5 |
70〜74歳 | 8.0〜9.0 | 9.0〜10.5 |
75〜79歳 | 8.5〜9.5 | 9.5〜11.0 |
80歳以上 | 9.0〜10.0 | 10.0〜12.0 |
- 男性の方がわずかに速い傾向。
- 年齢が上がるほど時間が延びる。
- 15秒以上は男女問わず転倒リスク高と解釈。
測定条件(椅子高・足位置など)によって結果は影響を受けるため、条件の統一と経時比較が重要です。
臨床での活かし方と注意点
- 経時的評価:介入前後やフォローで変化を追いやすい。
- 転倒予防の指標:他のバランステストや歩行速度、転倒歴と組み合わせると精度が上がる。
- フレイルの示唆:5回連続で立ち上がれない場合は筋力低下・フレイルを強く疑う。
- 測定条件の統一:椅子高・足位置・手の使用可否は一定に。
数値だけでなく、動作観察(足圧移動、体幹前傾の取り方、膝・股関節の協調、左右差)から「なぜ時間がかかっているのか」を分析し、個別の課題設定に結びつけることが鍵です。
まとめ
- 5STSは下肢筋力と転倒リスクを簡便に評価できる信頼性の高いテスト。
- 15秒以上は転倒リスク上昇の重要サイン。
- 条件を統一し、経時比較と他指標の併用で臨床判断の精度が高まる。
- 数値+動作分析で個別の介入につなげる。
参考文献・出典
- American Physical Therapy Association (APTA). 5 Times Sit-to-Stand Test (FTSST) 概説・臨床実践資料.
- Academy of Neurologic Physical Therapy (NeuroPT). 5 Times Sit-to-Stand Test Pocket Guide, 2021.
- Bohannon RW. Reference values for the five-repetition sit-to-stand test. Physiother Res Int. 2006.
- Systematic reviews/meta-analyses(2021以降):15秒以上で転倒リスク上昇を支持するレビュー論文(PubMed掲載).
- Measurement条件と成績の関連を検討した研究:Medicine (LWW) 掲載論文(2023年)など。
※本文は一次研究と専門団体資料を基に要約・再構成しています。詳細な論文名・DOIの付与や日本語資料(学会誌・ガイドライン)への差し替えも可能です。
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