立ち直り反応は、「反応が弱い/強い」というより、“引き出す条件がそろっていない” 場合に十分に働かないことが多い印象があります。
そのため訓練では、崩し方・戻し方・姿勢の条件・恐怖心 の4つが上手く噛み合うように段階づけることが重要です。
この記事では、前方・側方・後方それぞれの訓練を、座位 → 立位 → 動作場面 へつなげる流れで整理します。
1)訓練前に押さえておきたい3つの前提
① 崩し方は小さく──“戻れる経験”を積む
立ち直り反応が引き出されにくい方は、崩し方が大きいほど恐怖心・緊張上昇 → 上肢支持や固さ に移りがちです。
先輩の介入を見て学んだのは、「まず戻れる量で経験を積ませる」 という視点でした。
② 恐怖心の調整は前提条件
恐怖心が強いと、頸部・体幹の反応が出る前に肩すくめ・上肢支持・全身の固さが先行します。
座面や手すりの“触れられる距離” を確保すると、戻れる感覚がつかみやすい印象があります。
③ “戻し方”を引き出す介入
崩すだけでは立ち直り反応は育ちません。
「どこに戻したいのか」を環境で示す ことで、頸部 → 体幹 → 骨盤 → 下肢と順序だった反応が出やすくなります。
2)前方反応の訓練方法(座位→立位→動作)
● 座位|小さな前方体重移動と“視線の先”
- 足裏の接地を安定させ、膝裏に軽く支持物を置いて安心感を確保
- 倒れる方向に物を置くのではなく、戻したい位置に視線の目標を設定
- “前に行く”ではなく、“戻るラインがある” と伝わりやすい環境を作る
印象として、
体幹を丸めて前へ倒れる方は、戻す距離を短くすると肩の緊張が取れやすい ことが多いです。
● 立位|前方への小さな揺さぶり → 戻しの経験
- 壁や手すりに軽く触れられる距離に立つ(完全には持たず、触れる程度)
- 股関節で戻す動きを小さな範囲で繰り返す
- 固さが強い場合は、骨盤前傾を少し作り、体幹が起きやすい条件に寄せてから行う
● 動作場面|立ち上がり・歩行に接続
- 立ち上がりで“前へ移る量”を微調整しながら練習する
- 前方への戻しが弱い方は、立ち上がりの初動で肩が上がる・背中が丸まる傾向がある
- “すぐ立つ”のではなく、戻れる前傾を作る練習を一度挟むと、動作が安定しやすい
3)側方反応の訓練方法(座位→立位→動作)
● 座位|体幹の“側方戻し”を小さく繰り返す
- 座面を少し広くとり、倒れる方向側に手すりを置かない(上肢の逃げを抑える)
- 戻す位置に“視線目標+触れられる物”を配置する
- 無理のない範囲で、“肩がすくむ前に戻す”経験を少しずつ積む
● 立位|側方崩し → 支持脚の戻し
- 足幅を広げすぎない(広すぎると崩れ方が分かりにくい)
- 方向転換や重心移動の“戻す途中”で支えるような練習を入れる
- 中殿筋の弱さだけでなく、“戻したい位置が曖昧”な場合も多く、目標物を置くことで方向が掴みやすくなる
● 動作場面|方向転換・片脚支持
- 方向転換は側方崩れが見えやすい動作の一つ
- 不安が強い方は、先に視線を向けてから体を回すと戻りがスムーズになることが多い
- 片脚支持が短くても、戻れる経験を積むことで、“逃げる前に戻す”感覚が少しずつ育つ印象がある
4)後方反応の訓練方法(座位→立位→動作)
後方は、恐怖心が特に強く出やすい方向です。
まずは 視線・支持物・介助量 を調整しながら、“戻れる量” を見極めていきます。
● 座位|視線が上がると戻しやすい
- 後方に不安があると視線が落ち、背中が丸まりやすい
- 視線目標をやや高く設定し、“戻したい方向” が体に入りやすい条件を作る
● 立位|後方の崩れ → 股関節伸展の戻し
- 椅子や壁を軽く触れられる距離に配置し、安心感を確保する
- 戻しの誘導は骨盤から行い、股関節伸展の反応を引き出す
- 肩で戻ろうとすると全身の固さが先に出るため、そのパターンには注意する
● 動作場面|後方歩行・段差での戻し
- 後方歩行は「戻しの方向性」が体に入りやすい練習
- 段差昇降の後半は後方重心移動が必要となり、“戻しの方向” を意識しやすい場面になる
5)段階づけの考え方|4つの軸で調整する
訓練の段階づけは、次の4つの軸で考えると整理しやすくなります。
- ① 支持基底面の広さ
- ② 介助量(触れる → 部分介助 → 見守り)
- ③ 崩し方(小 → 中)
- ④ 動作課題(座位 → 立位 → 歩行など)
この4軸を少しずつ調整し、「戻れる経験」と「戻りそうな環境」を増やすことが、立ち直り反応を引き出す近道だと感じています。
6)訓練を臨床判断につなげる視点
- どこまで崩れると戻れないかを把握する
- 動作の中で戻せるかどうかを観察する
- 上肢に逃げる・固さが強い・視線が落ちるのは、「戻す前に防御が先に出ているサイン」として捉える
戻れる経験が積み重なると、
動作中の「戻し方」が変わり、転倒リスクの予測にもつながると感じています。
7)まとめ
- 崩れる経験と戻れる経験を両方つくる
- 恐怖心・視線・戻しの目標設定が鍵になる
- 座位 → 立位 → 動作で段階づける
- 戻れる量から始め、無理なく範囲を広げていく
立ち直り反応は、「教える」よりも、
“出る条件を整える” 視点が臨床では役立つと感じています。


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