大腿骨近位部骨折の患者さんを初めて担当したとき、「どのタイミングで立ち上がり練習を始めるべきか」「痛みがある場合、荷重をどれくらいかけて良いのか」と迷いました。
大腿骨近位部骨折術後のリハビリでは、医師の荷重指示を守りながら、痛みに配慮して段階的に動作練習を進めることが重要です。
この記事では、荷重量の理解、痛みへの対応、立ち上がり・歩行・階段練習の進め方を解説します。
大腿骨近位部骨折の基本
頚部骨折と転子部骨折の違い
大腿骨近位部骨折は、骨折部位によって「頚部骨折」と「転子部骨折」に分けられます。
頚部骨折:大腿骨の頚部(股関節に近い部分)が折れる骨折。血流が乏しく、骨癒合しにくい。
転子部骨折:大腿骨の転子部(頚部より少し下)が折れる骨折。血流が比較的良く、骨癒合しやすい。
手術方法による違い
手術方法は、骨折の部位や患者の年齢によって異なります。
人工骨頭置換術:頚部骨折で高齢者に多く選択される。骨頭を人工物に置き換える。
骨接合術:転子部骨折や比較的若い患者に選択される。骨折部を金属プレートやネイルで固定する。
手術方法によって、荷重時期や脱臼リスクが異なるため、医師の指示を確認することが重要です。
荷重時期の判断と痛みへの対応
術式による荷重時期の違い
荷重時期は、手術方法によって異なります。
人工骨頭置換術:術後すぐに全荷重が可能なことが多い。
骨接合術:部分荷重から始め、骨癒合の状態を見ながら段階的に全荷重へ移行する。
医師の指示に従い、荷重量を確認してからリハビリを開始します。
全荷重・部分荷重・免荷の区別
全荷重:体重をすべてかけて良い状態。
部分荷重:体重の1/3〜1/2程度の荷重に制限される状態。「足をつく程度」「痛みのない範囲」と指示されることもある。
免荷:荷重をかけてはいけない状態。
部分荷重の場合、体重計を使って実際の荷重量を確認することがあります。
痛みがある場合の荷重調整
全荷重の指示が出ていても、痛みがある場合は無理に荷重をかけません。
私が担当した患者さんで、全荷重の指示が出ていたにもかかわらず、術側下肢に荷重をかけると強い痛みが出るケースがありました。このときは、痛みの出ない範囲で少しずつ荷重量を増やし、段階的に全荷重へ移行しました。
痛みがある場合は、以下の点を確認します。
- 手術部位の炎症や腫れ
- 筋力低下による不安定さ
- 動作方法の誤り
痛みが強い場合は、医師に報告し、荷重量の調整や鎮痛剤の使用を相談します。
動作練習の進め方
起き上がり・座位
ベッドからの起き上がり
術側を上にした側臥位から起き上がります。健側上下肢で体幹を支持しながら、術側股関節への屈曲ストレスを最小限に抑えます。脱臼リスクがある場合は、股関節屈曲90度以内を保つよう声かけします。
座位保持
端座位での体幹バランスと骨盤の安定性を確認します。術側下肢への過度な荷重を避けつつ、両足底接地で姿勢保持を促します。中殿筋の筋力低下がある場合、骨盤の傾斜に注意します。
立ち上がり
荷重配分の指導
立ち上がり動作では、健側下肢への荷重配分を7:3程度とし、術側下肢は支持性の確認程度に留めます。
- 殿部を前方にスライドさせ、重心を前方移動
- 両上肢でarmrestを押し、上肢の支持性を利用
- 健側下肢主導で股関節・膝関節を伸展
- 術側下肢は軽く接地し、荷重感覚を確認
術側股関節周囲筋の筋力低下や疼痛により、代償動作(体幹の過度な前傾・側屈)が出やすいため、動作パターンを確認します。
痛みや不安定感がある場合は、理学療法士が介助します。
バランス評価
立位での重心動揺を評価し、ふらつきがある場合は平行棒や歩行器で支持性を確保します。中殿筋の筋力低下によるトレンデレンブルグ徴候の有無も確認します。
歩行練習
歩行補助具の段階的移行
歩行器(ピックアップ型またはキャスター付き)→四点杖またはT字杖→独歩の順に進めます。
- 歩行器:BOS拡大により安定性が高く、術後早期から使用可能
- T字杖:健側上肢で保持し、術側下肢の支持性を補う
- 独歩:中殿筋・大殿筋の筋力が十分に回復してから移行
歩行パターンと荷重配分
2点歩行(歩行器):歩行器前方設置→健側下肢→術側下肢。術側下肢への荷重は指示範囲内に制限
3点歩行(T字杖):杖と術側下肢を同時に出す→健側下肢。杖で免荷または荷重軽減
私が担当した患者で、歩行器から杖への移行時に不安が強いケースがありました。平行棒内で片手支持歩行を段階的に練習し、BOS縮小に慣れてから杖歩行へ移行することで、患者の自信とバランス能力が向上しました。
階段昇降
動作の順序と筋活動
階段昇降では、健側下肢のpush-offと術側下肢の支持性が重要です。
昇り:健側下肢でpush-off → 術側下肢をステップに載せる → 杖を上げる
- 健側下肢の大殿筋・大腿四頭筋で体幹を引き上げる
降り:杖を先に降ろす → 術側下肢 → 健側下肢でコントロール
- 健側下肢の遠心性収縮で身体を制御
覚え方:「良い足から上がり、悪い足から降りる」
手すりと杖の併用
手すりが設置されている場合、健側で手すり、患側で杖を保持すると安定性が最も高くなります。手すりがない場合は、杖を健側に持ち替え、術側下肢への荷重を軽減します。
転倒予防
脱臼肢位の禁忌(人工骨頭の場合)
人工骨頭置換術を受けた患者さんは、脱臼のリスクがあります。以下の肢位は禁忌です。
- 股関節の深い屈曲(90度以上曲げる)
- 内転(脚を内側に閉じる)
- 内旋(脚を内側にひねる)
禁忌動作の具体例
- 床から物を拾う
- 低い椅子に座る
- しゃがむ
- あぐらをかく
- 脚を組む
これらの動作を避けるよう、患者さんに指導します。
自宅環境の調整
自宅に戻る前に、以下の環境調整を行います。
- ベッドや椅子の高さを調整(座ったときに股関節が90度以上曲がらない高さ)
- 手すりの設置(トイレ・浴室・廊下)
- 段差の解消
- 滑り止めマットの設置
自宅環境を事前に確認し、必要な福祉用具を準備することで、転倒リスクを減らせます。
まとめ
大腿骨近位部骨折術後のリハビリでは、医師の荷重指示を守りながら、痛みに配慮して段階的に動作練習を進めることが重要です。
起き上がり・立ち上がり・歩行・階段昇降の各動作で、術側下肢への負担を減らしながら、安全に練習を進めましょう。
人工骨頭置換術の場合は、脱臼肢位に注意し、自宅環境の調整も忘れずに行ってください。
臨床で大腿骨近位部骨折の患者さんを担当する際、この記事が参考になれば幸いです。

コメント