理学療法士のための脳卒中肩手症候群の評価と治療|早期発見のポイント

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脳卒中後の肩手症候群とは?

肩手症候群(Shoulder-Hand Syndrome:SHS)は、脳卒中後の患者さんに比較的高頻度でみられる合併症のひとつです。麻痺側の肩から手にかけて疼痛・浮腫・皮膚の変色・関節可動域制限が複合的に出現し、放置すると拘縮や筋萎縮を引き起こして上肢機能回復の大きな妨げになります。

現在は複合性局所疼痛症候群(CRPS typeⅠ)の枠組みで語られることも多く、交感神経系の異常亢進が関与していると考えられています。

私が回復期病棟で担当した患者さんのなかにも、入院当初は「少し手が腫れているな」という程度だったのに、2〜3週間後には手関節の背屈がほぼ出なくなり、夜間痛で眠れないほど悪化していたケースがありました。あのときの経験があってから、浮腫と疼痛の変化には以前より敏感になりました。「早期に気づき、早期に介入する」——これが患者さんの上肢機能を守るうえで最も重要な原則だと実感しています。

発症頻度と出現時期

脳卒中後の肩手症候群の発症率はおおよそ12〜25%程度とされています。脳卒中患者さんを担当していれば、5〜8人に1人程度は肩手症候群を経験する計算になります。決してまれな合併症ではありません。

発症時期は脳卒中後1〜3か月以内が最も多く、リハビリが本格化して離床・座位保持・車椅子移乗などの活動量が増えるタイミングと重なります。麻痺側上肢への対応が不十分なまま活動量が増えると発症リスクが高まるため、急性期から予防の意識を持つことが大切です。

臨床でよく経験するのが、「リハビリをしているから多少痛いのは仕方ない」と患者さん自身も周囲も思い込んでしまうパターンです。疼痛や浮腫を当然のこととして流してしまい、気づいたときには第Ⅱ期に移行していた——という経過をたどるケースが少なくありません。肩手症候群を念頭に置いたスクリーニングの視点が、見落とし防止に直結します。

病期分類と症状の特徴

肩手症候群は一般的に3つの病期に分類されます。それぞれの特徴を把握しておくことで、今この患者さんがどの段階にいるかを臨床で判断しやすくなります。

第Ⅰ期(急性期)

最も介入の優先度が高い時期です。麻痺側の手・手首・前腕に浮腫が出現し、皮膚が赤みを帯びて触ると温かくなります。肩関節・手関節の可動域が制限され始め、動かすと強い疼痛を訴えることが多いです。

この時期に強引な可動域訓練を行うと症状が一気に悪化します。私自身、経験の浅いころに「可動域を広げなければ」という焦りから、疼痛のある患者さんに無理な他動運動をしてしまい、翌日に浮腫と疼痛が明らかに増悪した経験があります。この失敗から「疼痛があるときは引く」という判断を徹底するようになりました。

第Ⅱ期(慢性期)

浮腫は軽減してきますが、皮膚が乾燥・菲薄化し、色調が暗紫色や白みがかった色に変化します。疼痛は持続し、関節可動域制限が顕著になります。筋萎縮も進行し始めます。

持続痛・夜間痛として訴えられることが増え、患者さんの睡眠や意欲にも影響が出てきます。「夜中に痛くて目が覚める」という訴えが出てきたら、第Ⅱ期への移行を疑うサインとして受け取るようにしています。

第Ⅲ期(終末期)

疼痛は軽減または消失しますが、関節拘縮・皮膚や皮下組織の萎縮が固定化します。手の尺側偏位や指の屈曲拘縮が典型的な所見として残ります。この段階では機能回復が非常に困難になります。第Ⅲ期まで進んでしまった患者さんを担当したとき、できることの少なさに無力感を感じたことがあります。だからこそ、第Ⅰ期での早期介入にこだわるようになりました。

早期発見のポイント|理学療法士がチェックすべき5つの所見

特別な検査機器がなくても、以下の5つを意識してスクリーニングするだけで多くのケースに早期から気づけます。

① 手背・手首の浮腫

最も早期から現れやすいサインです。健側と比較して手背が腫脹していないか、指を軽く押して圧痕が残らないかを確認します。

私が気をつけているのは、評価する時間帯を統一することです。浮腫は夕方に強くなる傾向があるため、「午前のリハビリでは目立たなかったのに夕方には腫れている」というケースがあります。担当外の時間帯の変化は看護師から情報をもらうようにしています。

② 皮膚の色調・温度変化

麻痺側の皮膚が健側と比べて赤みがあり、触ると温かい場合は要注意です。私は毎回のリハビリ開始時に、患側の手背を軽く触って健側と温度差がないかを確認する習慣をつけています。数秒でできる確認ですが、変化に早く気づくための有効な習慣です。

第Ⅱ期以降は逆に冷感・蒼白として現れるため、「熱い→冷たい」という変化の方向性も追うようにします。

③ 他動的な手関節・指関節の可動域制限と疼痛

ROM評価の際に手関節背屈や指の伸展を行ったとき、終末域で強い疼痛や抵抗感が出現する場合は肩手症候群を疑います。痙縮による筋緊張亢進からくるROM制限とは異なり、「柔らかく腫れた感じがあり、動かすと痛い」という組織の質感が特徴です。

ROM測定前に「少し動かしてみますが、痛かったらすぐに教えてください」と必ず伝えるようにしています。この一言で患者さんが疼痛を我慢せずに伝えてくれるようになり、見落としが減りました。

④ 肩関節の疼痛と可動域制限

肩の挙上や外旋時に強い疼痛が出現する場合も重要なサインです。肩関節亜脱臼・肩峰下インピンジメントとの鑑別が必要ですが、手の浮腫・疼痛と同時に肩の症状が出現している場合は肩手症候群として捉える視点を持ちます。

「肩の問題」「手の問題」と切り離して考えるのではなく、上肢全体で何が起きているかを俯瞰する視点が大切です。これは経験を積んで気づいたことで、若いころは肩と手を別々のトラブルとして評価してしまっていました。

⑤ 爪の変化・発汗異常

爪の白濁・縦線・変形や、患側の発汗増加または過乾燥といった自律神経症状も肩手症候群の特徴です。リハビリ中には気づきにくいですが、入浴介助や清潔ケアの場面で看護師が発見することがあります。

「爪の変化に気づいたら教えてほしい」と看護師に事前にお願いしておくだけで、情報が集まりやすくなります。チームで「気になった変化は共有する」という文化をつくることが、早期発見の仕組みとして機能します。

評価方法

以下の評価を組み合わせて、初回から定期的に経過を追います。変化の方向性を追うことが目的なので、条件をそろえて継続することが最も重要です。

疼痛評価

NRSを用いて、安静時・他動運動時・自動運動時それぞれを分けて評価します。「動かしていないときの痛みは何点ですか」「動かしたときの一番強い痛みは何点でしたか」と分けて聞くと、疼痛の性質と変化をより細かく把握できます。夜間痛の有無も必ず確認するようにしています。

浮腫の定量評価

手・前腕の周径をメジャーで計測し、健側との差を記録します。計測部位は「第2〜5中手骨骨頭部」「手関節部」を統一して毎回同じ条件で測定します。朝と夕方では値が変わるため、測定時間帯も記録しておくことが比較の精度を上げるポイントです。

関節可動域(ROM)評価

肩関節(屈曲・外転・外旋)、手関節(背屈・掌屈)、手指(MP・PIP・DIP各関節の伸展)を定期的に計測します。疼痛が強い時期は「痛みが出る前の範囲」を記録しておき、拘縮の進行を早期に把握することを優先します。

皮膚・温度所見の記録

色調の変化・皮膚の光沢・萎縮の有無・爪の状態を文章と写真で記録します。私は初回評価時に写真を撮り、2週間ごとに比較するようにしています。変化を視覚的に示すと、患者さん・家族への説明にも説得力が出ます。

理学療法の介入方針

疼痛と浮腫のコントロールを最優先にしつつ、拘縮予防・機能維持を並行して進めます。病期に応じた介入の選択が非常に重要で、「とにかく動かす」は禁物です。

ポジショニングと良肢位の保持

すべての病期において最優先される介入です。手首・手指を軽度背屈位に保ち、手が体より下垂しないようにクッションやアームサポートを活用します。

ポジショニングは24時間継続してこそ効果が出ます。リハビリの1時間だけ整えても、残り23時間が崩れていれば意味がありません。看護師・介護士・家族への具体的な指導と写真を使った説明が不可欠です。私は「こう置いてください」という写真を病室に貼り出すことを習慣にしています。

愛護的なROM訓練

「痛みが出る前の範囲で、ゆっくり動かす」が大原則です。疼痛を誘発しない範囲での他動的・自動介助的なROM訓練を実施します。強制的な可動域拡大は炎症を悪化させるリスクがあるため、絶対に避けます。

自動運動が可能な場合は積極的に促します。自分で動かすことが血流改善・浮腫軽減にも寄与するためです。「グーパー運動を1日に何度もやってみましょう」と患者さんに自主練として促すことも有効です。

浮腫に対するアプローチ

手指から近位に向かう遠心性のマッサージを実施します。「なでるように流す」程度の圧で十分で、強い圧は逆効果になります。上肢の挙上ポジショニングとマッサージを組み合わせることで相乗効果が期待できます。

弾性グローブの使用も選択肢のひとつですが、締め付けすぎると静脈還流を妨げるため、OTと相談しながら選択するようにしています。

寒冷・温熱療法の使い分け

第Ⅰ期の急性炎症期には温熱療法は禁忌となることが多く、アイシングが浮腫・疼痛軽減に有効です。第Ⅱ期以降の慢性期にはROM訓練前の温熱療法が組織の柔軟性を高めることがあります。病期を確認せずに温熱を当てると症状を悪化させるため、必ず病期判断をセットにして選択します。

鏡療法(ミラーセラピー)

鏡で健側の動きを映し、麻痺側が動いているように錯覚させる鏡療法は、疼痛軽減と運動機能改善に一定のエビデンスがある介入です。ミラーボックスひとつあれば実施できるため導入しやすく、私自身も複数の患者さんに取り入れてきました。「脳に正しい運動のイメージを送る練習です」と伝えると、患者さんに納得して取り組んでもらいやすいです。

他職種との連携

肩手症候群の管理はPT単独では完結しません。医師による薬物療法(NSAIDs、ステロイド、交感神経ブロックなど)、OTによる装具療法(スプリント作製)、看護師によるポジショニング管理と日常観察が不可欠です。

特に看護師との連携は重要で、私は入院初期のカンファレンスで必ず「浮腫や疼痛の変化があればすぐに教えてください」とお願いするようにしています。現場で一番長く患者さんのそばにいるのは看護師です。その情報をPTが活かせる関係をつくることが、早期発見の最大の武器になります。

予防のための視点

発症させないための予防が最も効果的です。急性期から以下の点をチーム全体で意識することが、長期的な上肢機能の維持につながります。

  • 麻痺側上肢の下垂・放置を避けるポジショニング教育を患者・家族・看護師へ行う
  • 車椅子移乗・移動時に麻痺側上肢が落ちたり引っ張られたりしないよう確認する
  • 不必要に強い牽引・他動運動を行わない(特に肩関節の過度な牽引は要注意)
  • 浮腫・疼痛・皮膚変化を日常的に観察し、気づいたことをすぐ共有する

急性期病院からの申し送りに「上肢浮腫あり」「肩の疼痛あり」という情報が入ってきた場合は、入院当日から肩手症候群を念頭に置いた評価を開始することを習慣にしています。

まとめ

肩手症候群は見落とすと患者さんの上肢機能回復を大きく妨げる合併症です。理学療法士として以下の4点を意識することが、早期発見と適切な介入につながります。

  1. 発症後1〜3か月は特に注意してスクリーニングを行う
  2. 浮腫・疼痛・皮膚変化・ROM制限を複合的に評価し、病期を判断する
  3. 病期に応じた介入(ポジショニング・ROM訓練・物理療法・鏡療法)を選択する
  4. チーム全体で予防の意識を共有し、急性期から取り組む

臨床の中で「なんとなく手が腫れている気がする」「最近肩を痛がっているな」という印象を持ったとき、その感覚を大切にしてください。早期介入のきっかけは、日々の小さな気づきから生まれます。

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