バイタルサインと運動処方の基本|理学療法士が知っておくべきリスク管理と臨床活用

臨床スキル・実践知識

はじめに

理学療法士が運動療法を行う際、バイタルサインのチェックは欠かせません。血圧や脈拍、SpO₂といった数値はもちろん、患者さんの表情や反応など、数値だけでは分からないサインも見逃さないことが大切です。本記事では、臨床で役立つバイタルサインの確認方法と、リスク管理の実践的なポイントを整理します。


バイタルサイン確認の基本項目

  • 血圧(安静時・運動中・運動後)
  • 心拍数・リズム
  • SpO₂(動脈血酸素飽和度)
  • 呼吸数・呼吸様式
  • 体温

これらは運動処方の基礎データであり、変化を正しく把握することで安全な介入が可能になります。

アンダーソン・土肥の基準

以下は、運動療法における代表的な中止・注意基準のひとつとして知られる アンダーソン・土肥の基準です。臨床判断の参考情報として掲載します。

Ⅰ.運動を行わないほうがよい場合

  1. 安静時脈拍数 120/分以上
  2. 拡張期血圧 120mmHg 以上
  3. 収縮期血圧 200mmHg 以上
  4. 労作性狭心症を現在有するもの
  5. 新鮮心筋梗塞 1ヶ月以内のもの
  6. うっ血性心不全の所見の明らかなもの
  7. 心房細動以外の著しい不整脈
  8. 運動前すでに動悸・息切れのあるもの

Ⅱ.途中で運動を中止する場合

  1. 運動中、中等度の呼吸困難、めまい、嘔気、狭心痛などが出現した場合
  2. 運動中、脈拍が 140/分を越えた場合
  3. 運動中、1分間 10 個以上の期外収縮が出現するか、または頻脈性不整脈(心房細動、上室性または心室性頻脈など)あるいは徐脈が出現した場合
  4. 運動中、収縮期血圧が 40mmHg 以上、または拡張期血圧が 20mmHg 以上上昇した場合

Ⅲ.一時中止し、回復を待って再開する場合

  1. 脈拍数が運動時の 30% を超えた場合。
    ただし、2分間の安静で 10% 以下にもどらぬ場合は、以後の運動は中止するか、または極めて軽労作のものに切りかえる。
  2. 脈拍数が 120/分を越えた場合
  3. 1分間に 10 回以下の期外収縮が出現した場合
  4. 軽い動悸・息切れを訴えた場合

⚠️ 実際の運動可否の判断は、必ず医師の指示に従ってください。


数値とあわせて観察すべきポイント

数値が基準範囲内であっても、患者さんの全身状態に異常が隠れていることがあります。

  • 顔色の変化(蒼白・チアノーゼ)
  • あくびや表情の変化
  • 声かけに対する反応の遅れ
  • 息切れ、呼吸困難感の訴え

こうした兆候は、リスクを早期に察知する重要なサインです。数値+観察+患者の訴えを組み合わせることで、より安全な判断ができます。


看護師や医師との情報共有

リスク管理は理学療法士だけで完結しません。

  • 看護師と共有:バイタルサインの変動や症状を記録・口頭で伝達
  • 医師に報告:数値基準を超える変化や自覚症状の悪化は即時報告

例えば「運動開始前に血圧が通常より30 mmHg高かった」「運動中にSpO₂が90%まで低下した」など、具体的な数値と状況を添えて報告すると、医師の判断もスムーズになります。


まとめ

バイタルサインは単なる数値ではなく、患者のリスク管理に直結する重要な情報です。

  • アンダーソン土肥の基準を参考にする
  • 数値と全身状態をあわせて観察する
  • 看護師・医師と連携して情報を共有する

これらを徹底することで、安全かつ効果的な運動処方が可能になります。理学療法士としては「数値を見るだけで終わらず、チーム医療の中で活用する」姿勢が求められます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました