理学療法士のためのハムストリングスストレッチ完全ガイド|正しい評価・効果的な伸張方法・禁忌まで徹底解説

臨床スキル・実践知識

ハムストリングスは臨床で最もストレッチする機会の多い筋のひとつです。
しかし「伸ばしているつもりで実は伸びていない」「禁忌を見逃してしまう」など、意外と難しいポイントが多くあります。

この記事では、理学療法士として押さえておきたい正しいストレッチの方法・禁忌・評価のコツをまとめました。
新人〜中堅PTが現場ですぐに使える内容に絞っています。


ハムストリングスストレッチのポイント5つ

  1. 骨盤の後傾を防ぎ、股関節屈曲の可動域で伸張を引き出すことが重要
  2. 大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋で伸び方が違うため、膝・下腿の角度を調整する
  3. 坐骨神経の牽引痛と筋の伸張痛を必ず鑑別する
  4. 疼痛や痺れが出た場合は即中止し、神経系の評価を優先する
  5. ストレッチ後は骨盤・体幹筋と連動した再学習を入れることで歩行やADLに効果がつながる

1. ハムストリングスの機能と特徴

ハムストリングスは、

  • 大腿二頭筋(長頭・短頭)
  • 半腱様筋
  • 半膜様筋

の総称で、主に股関節伸展・膝関節屈曲に関与します。

特徴としては以下が重要です。

  • 二関節筋のため、膝・股関節の角度で張力が大きく変化する
  • 骨盤後傾との関連が強い(tight HS=骨盤後傾+腰椎後弯)
  • 坐骨神経との位置が近く、神経牽引痛と筋痛が混在しやすい

新人PTがつまずきやすいポイントでもあります。


2. 正しいストレッチングの方法(臨床で使いやすい3パターン)

① 仰臥位での他動ストレッチ(最も一般的)

  1. 患者を仰臥位にする
  2. ストレッチ側の股関節を屈曲する
  3. 膝を伸ばしながら、股関節屈曲角度で伸張を引き出す
  4. 反対側ASISをしっかり固定する
  5. 20〜30秒 × 3セットを目安に行う

② 座位でのストレッチ(自主トレ用)

  1. 片脚を前に伸ばして座る
  2. 骨盤を立てたまま上体を前傾させる
  3. 背中を丸めず、股関節から倒すイメージで行う
  4. 15〜20秒保持する

多くの患者は骨盤を立てられず(後傾してしまう)ため実施が難しいことがあります。
その場合は、台を高くする・軽く骨盤を前方へ誘導するなどの工夫が有効です。

③ 立位でのストレッチ(動作に近い姿勢)

  1. 伸ばす側を一歩前に出す
  2. 前脚の膝を伸ばす
  3. 骨盤を前傾させながら体を前方へ倒す
  4. 反対脚は後方で支持する

立位は歩行やADLの再現性が高いため、帰結につなげやすいのが特徴です。


3. 筋ごとの狙い分け(臨床で差がつくポイント)

大腿二頭筋(外側)

  • 下腿を外旋させると伸びやすい
  • スポーツ選手や変形性膝関節症で硬くなりやすい

半腱様筋・半膜様筋(内側)

  • 下腿を内旋させると伸張しやすい
  • 骨盤後傾と連動して硬くなる傾向がある

膝・下腿の角度で伸びる部位が変わることを必ず意識することが、臨床での精度を高めるポイントです。


4. 禁忌事項

以下の場合はストレッチを控える、または強度を大きく下げる必要があります。

  • 坐骨神経痛や神経症状の増悪
  • 腰椎椎間板ヘルニアの急性期
  • 殿部・大腿後面のしびれが出現する場合
  • 急性期の肉離れ(ハムストリングス損傷)
  • 術後早期(THA/TKAなど)での過度な伸張
  • 炎症や熱感、腫脹のある場合

痛みが「表層の筋」ではなく「深部のジーンとした痛み」に感じる場合は、神経牽引を疑います。


5. 筋の伸張感 vs 坐骨神経牽引痛の鑑別

臨床で最も重要なポイントのひとつです。

筋の伸張痛の特徴

  • 伸ばすほど徐々に張ってくる感覚
  • 表層に広がるような鈍い痛み
  • 姿勢や角度を調整すると軽減しやすい

神経症状の特徴

  • ピリッとした鋭い痛み
  • 深部のしびれ・放散痛
  • 伸張角度が浅くても痛みが強く出る
  • 姿勢を変えても残りやすい

SLR / Bragard / Slumpテストなどの神経テストと組み合わせて評価することで、より確実な鑑別が可能になります。


6. ストレッチ効果をADLに生かすための再学習

ストレッチだけでは、機能改善や動作の変化に結びつきにくいことが多いです。
ストレッチ後に以下のような介入を組み合わせることで、効果が高まりやすくなります。

  • 骨盤前傾の運動学習(ペルビックチルト)
  • 股関節屈曲のモーターコントロール練習
  • ハムストリングスと臀筋の協調性トレーニング
  • 歩行中の骨盤の前後傾リズムの改善

特に骨盤前傾のコントロール練習は、即効性が高く、歩行や立ち上がりの質にも反映しやすい印象があります。


まとめ

  • ハムストリングスストレッチは骨盤の後傾を防ぎながら行うことが最重要
  • 膝・下腿の角度を調整して、狙いたい筋を正確に伸ばす
  • 神経牽引痛との鑑別は必須であり、症状増悪時は無理をしない
  • 禁忌に当たるケースではストレッチ以外のアプローチを優先する
  • ストレッチ後は骨盤・股関節の再学習を組み合わせて、ADL場面に効果をつなげる

臨床で毎日のように行うストレッチですが、細かいポイントを押さえるだけで効果は大きく変わります。
新人〜中堅の理学療法士にとって、確実に身につけておきたい基本スキルのひとつです。

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