下腿三頭筋ストレッチの臨床ポイント|腓腹筋とヒラメ筋を正しく伸ばす評価・手技のコツ

臨床スキル・実践知識

下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)は、歩行や立位バランスで非常に重要な筋です。
背屈制限があると、つまずき・転倒リスクの増加、歩行速度低下、膝・股関節の過負荷にもつながります。

しかし臨床では、
「腓腹筋とヒラメ筋のどちらを狙って伸ばしているか曖昧」
というケースも少なくありません。

この記事では、腓腹筋とヒラメ筋を正しく使い分けるための評価視点と、
臨床で使えるストレッチ手技をまとめます。


解剖の理解がストレッチ効果を左右する

【腓腹筋】

  • 二関節筋(膝関節+足関節)
  • 膝伸展位で伸張されやすい
  • 立脚後期の「蹴り出し」に大きく関与

【ヒラメ筋】

  • 単関節筋(足関節)
  • 膝屈曲位で伸張されやすい
  • 立脚初期〜中期の「制動」に重要

同じ「ふくらはぎのストレッチ」でも、
関節設定が違えば、伸びている筋が変わります。


どちらを伸ばすべきか?臨床の見極め方

腓腹筋を狙うケース

  • 蹴り出しが弱い
  • 立脚後期で底屈が十分出ない
  • 坂道でつまずきやすい

ヒラメ筋を狙うケース

  • 初期接地で背屈が出ない
  • 膝が屈曲位のまま沈み込む
  • 歩行の安定性が悪い

評価で動作特性を見て、目的の筋を選択していきます。


ストレッチ手技(腓腹筋/ヒラメ筋)

腓腹筋ストレッチ(膝伸展 × 背屈)

  • 仰臥位で他動的に足関節を背屈方向へ誘導する
  • 立位での壁押しストレッチ(膝はまっすぐ伸展位)
  • 代償として起こりやすい外返し、股関節外旋に注意する

仰臥位でのストレッチでは、
踵部と前足部をしっかり把持しつつ、距骨を後方に滑らせるイメージで背屈方向へ誘導します。

ヒラメ筋ストレッチ(膝屈曲 × 背屈)

  • 座位または長座位で膝を軽く屈曲させ、足関節を背屈方向へ誘導する
  • 立位で膝を軽く曲げた状態の壁押しストレッチ(後ろ側の脚の膝を軽度屈曲)
  • 代償として踵が浮いてこないように注意する

私の臨床では、足部の固定(距骨を押さえる)と脛骨の向きの管理を徹底しています。
これだけでも、「伸びている感覚がわかりやすい」と言われることが増えます。


ストレッチ効果を高める3つのコツ

  1. 距骨の後方滑りを意識する
    足関節背屈のときに、距骨が後方へ滑るイメージを持つことで、関節面での動きがスムーズになり、ストレッチの質が上がります。
  2. 距骨下関節の中間位を維持する
    外返し方向の代償が強いと、狙いたい筋から負荷がそれてしまいます。距骨下関節を中間位に保つことで、腓腹筋・ヒラメ筋にしっかり伸張感を入れやすくなります。
  3. 足関節の軸をまっすぐキープする
    膝とつま先の向きを揃え、足部の軸を意識することで、ストレッチの方向性が安定します。

よくあるNG例と修正ポイント

  • 股関節外旋になっている
    → 膝とつま先の向きを揃え、股関節の位置を戻す。
  • 足部が外返しになっている
    → 内果を少し前方へ誘導し、距骨を軽く押さえながら背屈方向へ誘導する。
  • 痛みを許容して過度な伸張を行う
    → リバウンドで筋緊張が強くなり、逆効果となることもあるため、「気持ちよい〜ややつらい」程度を目安にする。

自主トレ指導のポイント(患者さん向け)

自主トレとして指導しやすいのは、以下のような方法です。

  • 壁押しストレッチ(膝まっすぐバージョン:腓腹筋)
  • 壁押しストレッチ(膝を軽く曲げるバージョン:ヒラメ筋)
  • 長座位または椅子座位でのタオルストレッチ

回数や時間の目安は、

  • 20〜30秒 × 3セット
  • 深呼吸しながら、痛みのない範囲で行う
  • 毎日継続することで、柔軟性の変化を実感しやすくなる

まとめ:目的に応じて筋を使い分けることが大切

  • 腓腹筋とヒラメ筋は、関節の設定によって伸張される筋が変わる
  • 動作評価から「どちらを優先して伸ばすか」を決めることが重要
  • 足部の固定と代償コントロールが、ストレッチの質を左右する

評価 → ストレッチ → 再評価 の流れで、
実際の歩行や立位バランスにどのような変化が出ているかを確認しながら、
介入の質を高めていきましょう。

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