「立脚が不安定」「ふらつきが強い」「階段が怖い」などの訴えの背景には、
高い確率で中殿筋(骨盤の安定に深く関わる筋)の機能低下があります。
中殿筋は立脚期に骨盤を水平に保つ重要な筋であり、
機能低下すると片脚立位や歩行の中にすぐサインが表れます。
私自身、回復期と維持期の両方で働いてきましたが、
バランス不良や階段への不安を訴える方を評価すると、
片脚立位と歩容のなかに共通したパターンが見られることが多いと感じています。
中殿筋機能低下で現れやすいサイン
- トレンデレンブルグ徴候
支持脚側の中殿筋が骨盤を支えられず、対側の骨盤が落ちる - デュシャンヌ歩行
骨盤低下を代償するため、体幹を支持脚側に大きく側屈する - 方向転換・Uターンでのぐらつきやタイミングの遅れ
- 階段昇降(特に下り)での不安定感や「踏ん張りにくさ」
こうしたサインは、「片脚で骨盤を支えきれているかどうか」を教えてくれます。
片脚立位テストでの評価手順
基本的な実施方法
- 裸足または室内履きで立位をとる
- 上肢は腰に当てる、または体側に自然に下ろす
- 片脚を軽く挙上する(股関節屈曲15〜30度程度)
- できるところまで保持してもらい、「崩れ始め」をよく観察する
このとき、何秒立てたかという時間だけでなく、
どの方向に・どのように崩れ始めるかを丁寧に見ることが大切です。
観察すべき4つのポイント
| 観察項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 骨盤 | 水平が保てているか/支持脚側・遊脚側どちらへ傾くか |
| 体幹 | 支持脚側への側屈や回旋で代償していないか |
| 膝 | 内反・内旋による崩れが出ていないか(股関節内旋とのセット) |
| 足部 | 過回内やアーチ低下により内側へ荷重が逃げていないか |
左右差が出たときの考え方
片脚立位の保持時間や崩れ方に左右差がある場合、
私は中殿筋の筋力低下や機能低下をまず疑うようにしています。
左右差が見られたときは、次のような動作を重点的に確認します。
| 動作場面 | 観察ポイント |
|---|---|
| 歩行(特に立脚中期) | 骨盤低下の有無/体幹側屈の方向と大きさ/膝内反や股内旋との連動 |
| 方向転換・ターン | 支持脚側での踏ん張り/重心移動のスムーズさ/足の「踏み直し」の有無 |
| 階段昇降(特に下り) | 支持脚でのブレーキが効いているか/下りの一歩目でのぐらつき |
| 立ち上がり直後の数歩 | 立脚に入った瞬間の骨盤の安定性/「ヨロッ」とする側がないか |
片脚立位での左右差と、
これら日常動作での不安定さが同じ側に出ている場合、
中殿筋機能低下が臨床像の中心にあることが多いと感じています。
その他の簡便な評価
| 評価方法 | ねらい・見るポイント |
|---|---|
| ラテラルステップダウン | 一段の台からの片脚ステップダウンで、膝内反・骨盤の崩れ・体幹側屈の有無を確認する |
| 側臥位での股外転運動 | 骨盤の前後傾や回旋が出ていないか/TFLや腰方形筋の代償が強く出ていないかを見る |
| 単脚立位での足位置変化(前後・左右スライド) | 支持脚側の骨盤・体幹のコントロールが保てているか/動的バランス能力を確認する |
これらは、見た目の変化が患者さんにも分かりやすく、
説明や再評価にも使いやすいと感じています。
介入(段階別の考え方)
① 初期:非荷重位での賦活と感覚づくり
まずはベッド上などで、中殿筋に力が入る感覚をつかんでもらう段階です。
- 側臥位での股外転運動
骨盤をしっかり固定し、足先はやや前向き〜軽い内旋位で実施。
大殿筋やTFLに頼りすぎないよう、収縮感を一緒に確認します。 - サイドブリッジ(膝立ち位から)
体幹と中殿筋を連動させて使う練習として有効です。 - ヒップヒッチ
立位または段差上で、骨盤を上下に小さく動かし、支持側中殿筋の収縮を意識してもらいます。
② 中期:荷重位での安定化トレーニング
次に、実際に体重を支える中で中殿筋を使えるようにしていきます。
- 壁や手すりに軽く手をついた片脚立位練習
- 片脚立位で、遊脚側の足を前後・左右に軽くスライドするエクササイズ
- ミニスクワットに、わずかに側方荷重を加えたバリエーション
この段階では、
「骨盤がどこまで正中に保てているか」を一緒に確認しながら進めていきます。
③ 実践期:歩行・段差・日常動作への展開
- 階段昇降(特に下り)での支持脚側中殿筋の働きを意識した練習
- 方向転換を含む歩行(ターン動作での安定性確認)
- 屋外の不整地や段差を利用したバランストレーニング
評価で見つけた「苦手な動作」を、
そのままトレーニングへつなげていくイメージで組み立てると、
患者さんの納得感も高くなりやすいと感じています。
臨床で感じていること
- 腰痛や膝痛を訴える方の多くに、支持脚側の中殿筋機能低下が見られる
- 片脚立位の質が改善してくると、階段・方向転換・外出時の不安が減ってくる
- 「立ち方」「歩き方」が変わることで、患者さん自身が変化に気づきやすい
中殿筋は、評価・介入・再評価の流れがとても分かりやすく、
リハビリの効果を共有しやすい筋だと感じています。
まとめ|片脚立位と歩容で中殿筋の「仕事」を可視化する
- 中殿筋機能低下は、片脚立位と歩容を丁寧に見ることで高い精度で見抜ける
- 「何秒立てたか」だけでなく、「どのように崩れ始めるか」を評価することが重要
- 歩行・方向転換・階段など、日常動作での苦手場面が介入ターゲットになる
器具がなくても、
片脚立位と歩行観察だけで、評価から介入までの流れは十分に組み立てることができます。
明日からの評価のなかで、
片脚立位と歩容に少し視点を足してみてください。
きっと、中殿筋の「仕事ぶり」がよりクリアに見えてくると思います。


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