はじめに
膝関節の伸展制限は、歩行や立ち上がりといった基本動作に直結するため、理学療法士にとって評価と原因分析は欠かせません。
「なぜ膝が伸びないのか?」を的確に捉えることで、その後の治療アプローチの精度が大きく変わります。
ここでは、膝関節伸展制限の代表的な原因と、臨床で押さえておきたい評価の流れを整理します。
膝関節伸展制限の主な原因
膝が伸びない背景には、複数の因子が絡んでいます。大きく分けると以下の通りです。
- 関節構造の問題:関節包や靭帯の短縮、瘢痕化による制限
- 筋・軟部組織の問題:ハムストリングス、腓腹筋、膝窩筋などの過緊張や短縮
- 骨性因子:骨片、関節内の変形や骨棘による機械的ブロック
- 疼痛による防御性収縮:手術後や外傷後に見られる「伸ばしたくない」反応
- 神経学的要因:痙縮や異常筋緊張による制御不全
このように多角的に考えることが、正確な評価につながります。
評価の基本的な流れ
膝関節伸展制限を評価する際は、以下の流れを意識すると整理しやすくなります。
1. 視診・動作観察
- 歩行時に膝が伸びきらない
- 立位で患側が常に軽度屈曲位を取っている
- 座位から立ち上がるときに患側に負担が集中している
まずは「動作全体の中でどの程度伸展が不足しているか」を把握します。
2. 関節可動域(ROM)評価
- 自動・他動での膝伸展可動域を測定
- 他動での抵抗感が「軟部組織性」か「骨性」かを確認
3. 軟部組織の評価
- ハムストリングスのタイトネス
- 大腿四頭筋・膝窩筋の働き
- 筋の伸張痛や抵抗感を丁寧に確認
4. 関節包・靭帯の評価
- 後方関節包の短縮の有無
- PCLやMCLなど靭帯性の制限要因
5. 付随する因子の評価
- 疼痛の有無と強さ
- 手術痕や腫脹の影響
- 神経学的な痙縮や反射の影響
臨床での押さえどころ
膝伸展制限を評価する際には、単に「何度伸びるか」を見るだけでなく、「どこで」「どの組織が」制限しているのかを探ることが大切です。
- ROM測定だけでなく触診・動作観察を組み合わせる
- 関節性か筋性か、疼痛か痙縮かを明確に分ける
- 得られた情報を治療に直結させる
この流れを意識すると、評価の質が一段と高まります。
まとめ
膝関節伸展制限は、歩行や日常生活に大きな影響を与える重要な課題です。
- 原因は関節・筋・骨・疼痛・神経など多岐にわたる
- 評価は「動作観察 → ROM → 軟部組織 → 関節包・靭帯 → 付随因子」の流れで行う
- 臨床では制限因子を明確にし、治療につなげることが重要
次回は、この評価を踏まえて「膝関節伸展制限に対するモビライゼーションの手順(治療編)」を解説していきます。
コメント