痛みの“見える化”が臨床の精度を高めます
疼痛評価スケールは、患者さんの「痛み」という主観的な感覚を数値化・可視化するためのツールです。理学療法士にとって、疼痛は動作能力や運動療法の効果に直結する重要要素であり、定期的かつ客観的に評価することが欠かせません。スケールごとに特徴や使いどころが異なるため、それぞれを理解して適切に選択することが重要です。
よく使われる3つの疼痛スケール
- VAS(Visual Analog Scale)
- NRS(Numerical Rating Scale)
- FACES(Face Pain Scale)
以下で各スケールの特徴と使い方を解説します。
VAS(Visual Analog Scale)
VASは「視覚的アナログ尺度」と呼ばれ、一般に10cmの直線上で痛みの強さを示す方法です。左端を「痛みなし」、右端を「想像できる最大の痛み」として、患者さんに線上へ印をつけてもらい、距離(mm)で評価します。数値よりも連続量として扱えるため、微小な変化の把握に向いています。
メリット
- 小さな痛みの変化を捉えやすい(感度が高い)
- 治療前後の差分評価に有効
デメリット
- 高齢者や認知機能低下例では理解が難しい場合がある
- 用紙・筆記具などの準備が必要で口頭評価に不向き
NRS(Numerical Rating Scale)
NRSは0〜10の数値で痛みを表す最もシンプルな方法です。「今の痛みを0〜10で表すとどのくらいですか?」と口頭で質問し、患者さんが数値で回答します。臨床では取り回しがよく、記録・共有が容易です。
メリット
- 簡便でどの場面でも使いやすい(器具不要)
- 電子カルテやチーム内での共有がしやすい
デメリット
- 患者さんの主観のばらつきが出やすい
- 数値の基準を具体化しにくく、再現性が落ちることがある
FACES(Face Pain Scale)
FACESは表情イラストで痛みの程度を示すスケールです。笑顔から泣き顔まで段階的な顔イラストが並び、患者さんが現在の状態に近い表情を選びます。小児や認知症高齢者、失語症など言語理解が難しいケースで有効です。
メリット
- 認知症・小児などにも適用しやすい
- 視覚的で直感的に理解できる
デメリット
- 細かな変化を数値で捉えにくい
- イラスト解釈の個人差・文化差の影響を受けやすい
3スケールの比較と使い分け早見表
| スケール | 評価方法 | 主な対象 | メリット | 注意点 | 
|---|---|---|---|---|
| VAS | 10cm線上へ印をつけ、距離(mm)で測定 | 若年〜中年の成人、スポーツ例 | 微小な変化を捉えやすい/前後比較に強い | 理解力・視覚認知が必要/器具が必要 | 
| NRS | 0〜10の数値で口頭・筆記回答 | 多くの成人で汎用 | 簡便・迅速/共有・記録が容易 | 主観のばらつき/基準のイメージが人により異なる | 
| FACES | 表情イラストから該当段階を選択 | 小児、高齢者、失語・認知症 | 視覚的に理解しやすい/言語負荷が少ない | 解像度が粗い/文化・個人差の影響 | 
臨床での活用ポイント
治療前後や経時的な比較に活用する
介入前後でスケール値を記録すると、治療効果の“見える化”ができます(例:NRS 8→4)。患者さんの納得感やアドヒアランス向上にもつながります。
チームで共有しやすい尺度を優先する
看護師・医師など他職種も使うことが多いNRSは、共通言語として有効です。一方でより精密な変化を把握したい場面では、VASを補助的に用いるなど目的別に併用すると精度が上がります。
患者さんの理解度・状況に合わせて選ぶ
- 高齢者・失語症・小児:FACESで視覚的に評価
- 成人で簡便に:NRSを第一選択
- 微小変化や前後差の評価:VASで定量性を高める
臨床場面別の使い分け例
- 整形外科(術前・術後、膝OAなど):VASで前後差を定量化して介入効果を明確化
- 脳卒中リハビリ:NRSで日々の疼痛強度を簡便にモニタリング、FACESも併用可
- 認知症・小児:FACESで表情から痛みを推定し、変化を段階で追跡
患者さんの理解力・疾患特性・評価目的に応じて、柔軟に尺度を切り替えることが重要です。
まとめ:痛みを数値化することは、信頼できる臨床判断の第一歩です
疼痛スケールの活用は、主観的な「痛み」を客観的に扱うための基本手段です。VAS・NRS・FACESそれぞれの特徴を理解し、患者さんに合った方法で評価することで、より精度の高い臨床判断と効果的なリハビリ介入が可能になります。
要点まとめ
- 疼痛スケールは「痛みの見える化」に不可欠
- VASは精密、NRSは簡便、FACESは視覚的に優しい
- 評価目的・対象者に応じてスケールを選択・併用する
- 継続記録で治療効果の説明責任と患者教育が進む
- チームで共通尺度を用いて連携を円滑化
 
  
  
  
  

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