はじめに|姿勢が崩れた“瞬間”の質を見る
バランス能力の評価では、TUGや片脚立位などの定量指標がよく用いられます。
しかし、臨床で転倒につながりやすいのは「崩れかけた瞬間をどう処理できるか」の部分です。
とくに座位と立位では、崩れ方と立ち直り方のパターンが異なります。
この記事では、姿勢条件ごとに評価ポイントがどう変わるのかを整理し、観察所見を臨床判断(危険場面の把握・訓練方針)につなげていきます。
立ち直り反応とは
立ち直り反応は、重心が支持基底面から外れそうになった際に姿勢を戻そうとする反応です。
階層的には以下の流れで観察されます。
- 頸部立ち直り反応(視線の再獲得)
- 体幹立ち直り反応(支持基底面内へ戻す)
- 下肢でのコントロール(股関節・足関節で調整)
- 保護伸展反応(最終的に上肢支持)
評価では反応の有無だけでなく、順序と質を見ることが大切です。
座位での評価|体幹の制御と恐怖感の影響が出やすい
座位の崩れで観察しやすい場面
- ベッド端座位での重心移動
- 方向転換時の体幹の揺れ
- 座位保持訓練中の注意分散
座位で観察するポイント
- 頸部と体幹の立ち直りが先に出るか
- 股関節から体幹がまとまって戻るか
- 体幹の過度な固さ・柔軟性の低下が見られないか
- 恐怖感や不安で反応が抑制されていないか
座位でよく見られる現象
軽度の崩れで、頸部・体幹の戻しが出る前に上肢支持が先に出る。
解釈の視点
軽度の崩れで早期に上肢支持が出る方は、
体幹や股関節周囲の柔軟性低下・筋緊張の高さ・不安感が影響し、
頸部や体幹の立ち直りより先に保護反応が出現することが多いです。
この場合、「反応が弱い」というより、
戻し方に制限要因があり、立ち直り反応が十分に発揮されていないと整理します。
立位での評価|支持基底面が狭く、反応様式が複雑になる
立位で観察しやすい場面
- 方向転換中の側方崩れ
- 歩行開始時の前方崩れ
- 歩行中の不整地・段差・つまづき
立位で観察するポイント
- 体幹が支持基底面内に戻ろうとするか
- 股関節・足関節の反応が引き出せるか
- 早期にステップ反応に逃げすぎていないか
- 上肢支持に頼りすぎていないか
立位でよく見られる現象
側方への崩れで、頸部・体幹より先にステップ反応へ逃げる。
解釈の視点
立位では支持基底面が狭く、不安定要素が増えるため、
体幹より下肢調整が優位になりやすい場面があります。
そのため、側方崩れでは“即ステップ”になることが多く、
頸部 → 体幹 → 下肢の順序を丁寧に観察する必要があります。
前方・側方・後方で変わる評価の視点
前方
- 体幹の屈曲が過剰にならず戻せているか
- 上肢が早期に出すぎていないか
- 視線が落ちたままになっていないか
側方
- 骨盤・体幹の反応が出る前にステップへ逃げていないか
- 支持側下肢の荷重反応が出るか
- 恐怖感が先行して固まっていないか
後方
- 後方崩れでの視線制御の遅れに注意
- 体幹伸展が一気に抜けていないか
- 足趾背屈のような細かな調整が出ず、体幹が固まって後方へ倒れ込む場合がないか
後方方向は視野が取れず予測しにくいため、
転倒経験や恐怖心の影響が強く出やすい点に注意します。
観察結果を臨床判断につなげる
観察結果は以下のように言語化すると、
危険場面・訓練優先度・指導内容が明確になります。
- 「座位で軽度崩れ → 上肢支持先行 → 体幹制御不足」
- 「立位側方崩れ → 即ステップ → 体幹反応を引き出す余地」
- 「後方崩れ → 視線制御不良 → 状況予測困難」
まとめ
- 座位と立位では崩れ方と立ち直り方が異なる
- 反応の有無ではなく、順序と質を見る
- 上肢の早期出現は“弱さ”ではなく“制限要因”を疑う
- 前方・側方・後方で危険場面が違う
静的評価だけでは分かりにくい「崩れた瞬間の反応」を捉えることで、
転倒予測と介入の精度を高めていくことができます。
次の記事(シリーズ②-2の予定)
次の記事では、
「方向別で見る立ち直り反応|前方・側方・後方の評価と臨床判断」
として、崩れ方の違いと転倒リスクのつながりを整理していきます。


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