回復期リハビリテーション病棟で働き始めたとき、最初に苦労したのがFIM評価でした。「この患者さんは4点?それとも5点?」と迷い、先輩に何度も確認した記憶があります。特に「監視」と「最小介助」の境界、補助具を使った場合の判定など、教科書通りにはいかない場面の連続でした。
FIM(機能的自立度評価表)は、回復期で必須の評価ツールですが、採点基準があいまいで評価者間で点数がずれやすいという悩みを抱える理学療法士も多いのではないでしょうか。
この記事では、FIMの基本構造から採点方法、実際の臨床で迷いやすいポイント、評価を退院支援やリハビリ計画に活かす方法まで、回復期で15年以上働いた経験をもとに解説します。
FIM(機能的自立度評価表)とは?
FIMの目的と役割
FIM(Functional Independence Measure:機能的自立度評価表)は、ADL(日常生活動作)の自立度を定量的に評価するための標準化されたツールです。1983年にアメリカで開発され、現在では世界中の医療・介護現場で使用されています。
FIMの最大の特徴は、「患者がどれだけ介助を必要とするか」を数値化できる点です。これにより、リハビリの効果判定や退院先の検討、チーム内での情報共有が容易になります。
回復期リハビリテーション病棟でのFIMの位置づけ
回復期リハビリテーション病棟では、FIMは施設基準に関わる重要な評価指標です。入院時と退院時のFIM得点を測定し、FIM利得(改善点数)やFIM効率(1日あたりの改善度)を算出することで、リハビリの質が評価されます。
また、FIM得点は退院先の検討にも活用されます。一般的に、FIM総得点が80点以上あれば在宅復帰の可能性が高く、60点未満では何らかの介護サービスが必要になることが多いとされています。
BI(Barthel Index)との違い
FIMと並んでよく使われるBI(Barthel Index)は、10項目・100点満点で運動機能を評価します。BIは採点がシンプルですが、FIMは18項目・126点満点で認知項目も含み、介助量をより細かく評価できるため、回復期リハビリテーション病棟で推奨されています。
FIMの基本構造|13項目・7段階評価の全体像
FIMは運動項目13項目と認知項目5項目の計18項目で構成されています。各項目を1点(全介助)から7点(完全自立)の7段階で評価し、合計18点から126点で判定します。
運動項目(13項目・91点満点)
運動項目は、セルフケア・排泄コントロール・移乗・移動の4つの領域に分かれています。
セルフケア(6項目):食事、整容、清拭、更衣上半身、更衣下半身、トイレ動作
排泄コントロール(2項目):排尿管理、排便管理
移乗(3項目):ベッド・椅子・車椅子、トイレ、浴槽・シャワー
移動(2項目):歩行・車椅子(15m以上が基準)、階段(12〜14段)
認知項目(5項目・35点満点)
認知項目は、コミュニケーションと社会的認知の2つの領域に分かれています。
コミュニケーション(2項目):理解、表出
社会的認知(3項目):社会的交流、問題解決、記憶
7段階評価の基準
FIMの各項目は、1点から7点の7段階で評価します。
7点:完全自立
介助・補助具・時間が不要で、安全に動作できる状態です。
6点:修正自立
動作は自立していますが、補助具の使用、通常の3倍以上の時間がかかる、または安全性に配慮が必要な状態です。
5点:監視または準備
動作は自立していますが、安全のための監視、声かけ、または準備(物品を手の届く位置に置くなど)が必要な状態です。
4点:最小介助
動作の75%以上を自分で行い、介助量が25%未満の状態です。
3点:中等度介助
動作の50%以上75%未満を自分で行い、介助量が25%以上50%未満の状態です。
2点:最大介助
動作の25%以上50%未満を自分で行い、介助量が50%以上75%未満の状態です。
1点:全介助
動作の25%未満しか自分で行えず、介助量が75%以上の状態です。
FIMの採点方法|正しい判定のポイント
「している動作」を評価する原則
FIMで最も重要な原則は、「できる動作」ではなく「している動作」を評価することです。
例えば、リハビリ室では歩行器で歩けても、病棟では車椅子を使用している場合、FIMでは車椅子移動として評価します。これは、FIMが日常生活での実際の自立度を測ることを目的としているためです。
評価は入院中の生活を基準とし、直近3日間程度の状況を参考にします。たまたまできた動作ではなく、日常的に安定して行えている動作を評価してください。
介助量の判定基準(25%、50%、75%の考え方)
FIMの4点から2点は、介助量の割合で判定します。しかし、この「介助量」の判断が難しいと感じる方も多いでしょう。
介助量は、時間・労力・頻度の3つの要素で判断します。
時間:動作全体にかかる時間のうち、介助に要する時間の割合
労力:介助者がどれだけ身体的・精神的な労力を使うか
頻度:動作の中でどれだけ頻繁に介助が必要か
実際に担当した右片麻痺の患者さんのケースで説明します。上着を着る際、左手で右袖を通すことはできましたが、ボタンを留める操作ができませんでした。「ほとんど自分でできているから5点でいいのでは?」と最初は思いましたが、ボタン操作が完全にできず毎回介助が必要なため、4点(最小介助)と判定しました。
時間的には短時間でも、その部分が自立していないことが判定のポイントです。
「監視」と「最小介助」の違い
5点(監視)と4点(最小介助)の境界は、現場で最も迷うポイントです。
以前、脳梗塞後の患者さんの立ち上がり動作で、「いつでも手を出せる距離で見守っている」状態を5点と判定していました。しかしある日、バランスを崩して咄嗟に軽く支えることがあり、「やっぱりこれは4点だったのか」と気づいた経験があります。
監視(5点)は、声かけや見守りだけで動作が完遂できる状態です。転倒リスクがあるため付き添いが必要、安全確認のため声をかける、といった場合が該当します。
最小介助(4点)は、少しでも身体接触による介助が入る状態です。例えば、立ち上がりで手を軽く引く、バランスを崩した瞬間に支える、といった介助が含まれます。
臨床では、「見守っているだけだから5点」と判断しても、実際には「いつでも手を出せる位置で構えている」状態であれば、実質的には4点に近いケースもあります。評価者間で認識を統一することが大切です。
「修正自立」の判定条件(補助具・時間・安全性)
6点(修正自立)は、自立はしているものの何らかの条件が付く状態です。判定の3つの基準があります。
補助具の使用:杖、装具、手すり、自助具などを使用している場合
時間:通常の3倍以上の時間がかかる場合
安全性:動作は可能だが、転倒リスクなど安全性に配慮が必要な場合
脳卒中の患者さんで、T字杖を使用すれば病棟内を歩ける方がいました。杖を使っての歩行は安定していたため、6点と判定しました。もし杖なしでも歩けるなら7点ですが、杖がないと歩行が不安定になるため、補助具使用で6点となります。
また、手すりを使って階段を昇降できる場合も6点です。高齢の患者さんで、階段は昇れるが1段ずつ時間をかけて昇る方の場合、通常の3倍以上かかっていれば6点と判定しました。
時間の基準は具体的な秒数で決まっているわけではありませんが、一般的に「通常の3倍以上」とされています。例えば、更衣に通常5分のところ、15分以上かかる場合は6点と判定します。
評価者間誤差を減らすための統一ルール
FIM評価で最も課題となるのが、評価者間での採点のばらつきです。回復期で働いていたとき、同じ患者さんをPT・OT・看護師それぞれが評価したら、点数が1〜2点ずれることがよくありました。
これを減らすために、以下のルールをチーム内で統一しました。
評価する時間帯を統一する:日内変動がある場合、午前中と午後で異なることがあります。できるだけ同じ時間帯で評価しましょう。当病棟では、午前のリハビリ後の状態を基準にしていました。
チーム内で採点会議を行う:月1回、ケースを持ち寄り「この状態なら何点か」を話し合う機会を設けました。動画を撮影して共有することで、認識のズレが大幅に減りました。
迷ったら低い方を選ぶ:6点か7点で迷ったら6点、5点か6点で迷ったら5点を選ぶなど、安全側に倒す判断基準を持ちます。
記録を残す:なぜその点数にしたかの根拠を記録しておくと、次回評価や他職種との共有がスムーズになります。「トイレ動作4点:ズボンの上げ下ろしで軽く介助」のように具体的に書くことで、誰が見ても判断基準がわかります。
実際の採点で迷いやすいポイント
運動項目
食事:自助具使用時の採点
自助具(スプーンやフォークの柄が太いもの、皿の縁が高いものなど)を使用して食事ができる場合は6点(修正自立)です。
ただし、食べ物を一口サイズに切る作業が必要な場合は4点以下となります。例えば、肉を切るところまでは介助が必要だが、その後は自分で食べられる場合は4点です。
また、食事の準備(配膳、ふたを開けるなど)が必要な場合は5点(監視または準備)となります。
更衣:座位・立位の違いによる判定
更衣動作は座位で評価するのが基本ですが、立位でないとズボンが履けない場合もあります。
座位保持が不安定で介助が必要な場合、更衣動作自体は自立していても、座位保持の介助が入るため4点以下となります。
また、ボタンやファスナーの操作ができない場合も減点対象です。上着のボタンを全て留められない場合は4点、半分程度留められる場合は3点と判定します。
トイレ動作:ズボンの上げ下ろしと拭き取りの評価
トイレ動作では、ズボンやパンツの上げ下ろし、拭き取り、衣服を整える一連の動作を評価します。
座位でズボンを下ろし、拭き取り、再びズボンを上げて整えるまでが評価対象です。立位でないとズボンを上げられない場合、立位保持に介助が必要なら減点となります。
また、ウォシュレットのボタン操作ができない場合や、拭き残しがあって介助が必要な場合も減点対象です。
移乗:手すり使用時の判定
ベッドから車椅子、車椅子からトイレなどの移乗動作で、手すりを使用する場合は6点(修正自立)です。
手すりなしでも移乗できる場合は7点、手すりを使っても軽く支える必要がある場合は4点となります。
また、移乗の際に車椅子のブレーキをかける、フットレストを上げるといった準備が必要な場合は5点です。
歩行:装具・杖使用時の採点
装具や杖を使用して15m以上歩行できる場合は6点です。装具・杖なしで歩ける場合は7点となります。
ただし、歩行が不安定で転倒リスクがあり、見守りが必要な場合は5点です。また、15m未満しか歩けない場合や、途中で休憩が必要な場合も減点対象となります。
車椅子移動の場合も同様に、15m以上自走できるかどうかが判定基準です。
階段:手すり使用と監視の有無
階段は12〜14段を昇降できるかで評価します。手すりを使用する場合は6点、手すりなしで安全に昇降できる場合は7点です。
手すりを使っても不安定で、見守りや軽い支えが必要な場合は4点となります。また、途中で休憩が必要な場合や、極端に時間がかかる場合も減点されます。
FIMを臨床に活かす方法
入院時FIMと退院時FIMの読み方
入院時FIMは初期状態を把握し目標設定に役立ち、退院時FIMはリハビリの成果や退院先の判断材料となります。FIM総得点が80点以上で在宅復帰の可能性が高く、60点未満では介護サービスが必要になることが多いとされています。
ただし、総得点だけでなく各項目の内訳を見ることも重要です。例えば、移動能力は高いが認知項目が低い場合、在宅復帰後の安全管理に課題が残ります。
FIM利得・FIM効率の計算と解釈
FIM利得は、退院時FIM – 入院時FIMで算出します。FIM効率は、FIM利得 ÷ 入院日数です。
回復期リハビリテーション病棟では、FIM効率が0.3以上あれば良好とされています。ただし、疾患や重症度によって目安は異なります。
リハビリ目標設定へのFIMの活用
FIMは、リハビリの目標設定にも活用できます。入院時FIMで低い項目を重点的に訓練し、退院時にどこまで改善させるかを具体的な数値で設定できます。
例えば、入院時に「移乗:3点」だった患者に対し、「退院時に5点(監視レベル)まで改善させる」という目標を設定します。この目標を多職種で共有することで、チーム全体で同じ方向を向いてリハビリを進められます。
カンファレンスでのFIMの伝え方
多職種カンファレンスでは、FIM得点を伝えるだけでなく、その背景や課題も共有します。
以前、担当していた脳出血後の患者さんのケースで、移乗が4点でした。カンファレンスでは「現在、移乗が4点ですが、ベッド柵を持てば立ち上がれます。自宅のベッドに手すりを設置すれば6点まで改善できそうです。退院後の住環境に手すり設置を検討したいと思います」と伝えました。
このように、具体的な支援策とセットで伝えると、ケアマネジャーや家族も退院後のイメージを持ちやすくなります。
また、認知項目が低い場合は、「問題解決が4点で、服薬管理に不安があります。薬カレンダーを使っても飲み忘れがあるため、退院後は訪問看護で服薬確認をお願いしたい」など、退院後のサポート体制につなげる情報として活用しました。
退院先決定への活用(在宅復帰の目安)
FIM総得点は、退院先を検討する際の重要な判断材料です。80点以上で在宅復帰の可能性が高く、60〜79点では介護サービスの利用が推奨されます。ただし、FIM得点だけでなく、家族の介護力、住環境、地域のサービス状況なども総合的に考慮することが大切です。
FIM評価の注意点とよくある疑問
「できる動作」ではなく「している動作」を評価する
繰り返しになりますが、FIMは「している動作」を評価します。リハビリ室では歩けても、病棟で車椅子を使っているなら、車椅子移動として評価してください。
これは、FIMが「日常生活での実際の自立度」を測る指標だからです。能力があっても使っていない動作は、評価対象にはなりません。
日によって変動する場合の対応
患者の状態が日によって変動する場合、直近3日間程度の平均的な状況を評価します。たまたま調子が良かった日や悪かった日ではなく、安定して行えている動作を基準にしてください。
以前、パーキンソン病の患者さんを担当したとき、薬の効き具合で動作レベルが大きく変わることがありました。薬が効いている時間帯は歩行が安定していましたが、効果が切れると歩行が困難になります。このような場合、薬の効果が切れた状態での動作レベルを基準にFIMを評価しました。
また、リハビリ直後と通常時で差がある場合は、通常時の状態を優先します。疲労が蓄積した状態での動作レベルが、日常生活の実態に近いためです。リハビリ後は歩行器で歩けても、午後になると疲労で車椅子を使う場合は、車椅子移動として評価します。
認知症患者の評価で注意すべきこと
認知症患者では、認知項目だけでなく運動項目も低くなりがちです。動作自体は可能でも、記憶障害や注意障害により、声かけや見守りが必要になるためです。
例えば、トイレに行くこと自体は忘れてしまい、声かけが必要な場合は5点です。動作能力と認知機能の両面から総合的に評価してください。
家族への説明のコツ
家族にFIMを説明する際は、点数だけでなく「日常生活でどれだけ自立しているか」を具体的に伝えます。
以前、脳梗塞後の患者さんの家族に退院前カンファレンスで説明したとき、「現在、移乗が4点です」と言っても、家族にはピンと来ませんでした。そこで、「ベッドから車椅子に移るとき、立ち上がりで軽く手を引く程度の介助が必要な状態です。ご自宅でも同じくらいの介助が必要になります」と伝えると、理解してもらえました。
また、退院後に家族が行う介助のイメージを持ってもらうために、実際の介助場面を見学してもらうことも効果的です。病棟での更衣や移乗の様子を見ていただき、「この程度の介助なら自宅でもできそう」と判断してもらうことで、退院後の生活がスムーズになります。
まとめ
FIM評価は、回復期リハビリテーション病棟で必須のツールです。18項目・126点満点の評価を正確に行うことで、リハビリの効果判定や退院先の検討、多職種での情報共有がスムーズになります。
回復期で15年以上働く中で、FIM評価の精度がチーム全体のリハビリの質を左右することを実感してきました。採点で迷ったときは、「している動作」を基準に判断し、評価者間で認識を統一することが大切です。
また、FIM得点だけでなく、各項目の内訳や患者の生活背景も含めて総合的に解釈してください。数字の裏にある患者さんの生活を見ることが、本当の意味での自立支援につながります。
臨床でFIM評価を活用し、患者の自立度向上と円滑な退院支援につなげていきましょう。

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