変形性股関節症のリハビリで大切にしていること
変形性股関節症(以下、股関節OA)の患者さんは、外来リハビリで長期間担当することが多い疾患のひとつです。「痛みを減らしたい」「手術は避けたい」という思いを持って来られる方がほとんどで、理学療法士としてどこまで貢献できるかが問われます。
私が担当した患者さんで、初回評価時に歩行時の股関節痛がNRS7/10だった方が、3か月の運動療法と生活指導でNRS2〜3まで改善したケースがありました。画像所見は変わっていませんでしたが、「痛みが減って買い物に行けるようになった」と喜んでいただけました。股関節OAのリハビリは、軟骨を再生させることはできませんが、痛みと機能を改善できる余地は十分にあります。
この記事では、初回評価の進め方から段階別の運動療法・生活指導まで、臨床で実際に使っているポイントを整理します。
変形性股関節症の基本的な病態理解
病期分類と症状の特徴
股関節OAはX線所見をもとに以下の4段階に分類されます。
- 前股関節症:骨頭・臼蓋の形態異常はあるが関節裂隙の狭小化なし。この段階から疼痛を訴えるケースもある
- 初期股関節症:関節裂隙のわずかな狭小化。歩行開始時や長時間歩行後の痛みが出やすい
- 進行期股関節症:関節裂隙の明らかな狭小化・骨棘形成。可動域制限が顕著になる
- 末期股関節症:関節裂隙の消失・骨頭変形。安静時痛・夜間痛が出現し、手術適応となることが多い
保存療法の対象は主に前股関節症〜進行期で、末期では人工股関節置換術(THA)の適応を医師と連携して判断します。
理学療法士として把握しておきたいポイント
股関節OAで疼痛が生じる主なメカニズムは、関節軟骨の摩耗による関節内圧の上昇・滑膜炎・周囲筋の筋力低下による関節への過剰な負荷です。X線で「重度」に見えても疼痛が軽い患者さんがいる一方、「軽度」でも強い痛みを訴える方もいます。画像所見だけで介入方針を決めず、機能評価と症状を丁寧に照合することが重要です。
また、日本人の股関節OAは欧米と異なり、寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)を背景とする二次性が約80%を占めます。もともと臼蓋の被覆が浅い形態的特徴があるため、評価時にX線情報を確認しておくと介入の方向性が立てやすくなります。
初回評価で確認すべき5つの項目
① 疼痛評価
NRSで安静時・歩行時・動作時(階段・立ち上がりなど)それぞれを評価します。股関節OAでは「動き始めの痛み(起動時痛)」が特徴的で、歩き始めの数歩で強く、歩き続けると軽減するパターンが多いです。
疼痛部位も重要です。鼠径部・大腿前面・大転子部・殿部など、どこが痛いかによって関与する組織が異なります。鼠径部痛は関節内由来、大転子部痛は中殿筋・腸脛靭帯由来のことが多く、評価と介入の方向性に影響します。
② 関節可動域(ROM)評価
股関節OAで制限が出やすい方向は内旋・外転・屈曲です。特に内旋制限は早期から現れやすく、進行とともに屈曲・外転の制限が加わります。
評価時は骨盤の代償に注意します。屈曲を測る際に骨盤が後傾していないか、外転時に骨盤が挙上していないかを確認しながら測定します。代償を許すと実際の可動域より大きく測定されてしまいます。
また、Thomas testで腸腰筋の短縮を確認しておくことも重要です。股関節屈曲拘縮があると立位・歩行時の骨盤前傾が強まり、腰椎への負担が増して腰痛を合併するケースがあります。
③ 筋力評価
優先して評価する筋群は以下の3つです。
- 中殿筋:片脚立位・歩行時の骨盤側方安定に不可欠。低下するとトレンデレンブルグ歩行が出現する
- 腸腰筋:股関節屈曲・骨盤前傾の制御に関与。萎縮すると歩幅が狭くなる
- 外旋筋群(深層外旋6筋):関節の安定化に関与。低下すると内旋・内転方向への崩れが起きやすくなる
MMTによる評価とあわせて、片脚立位テストでの骨盤の安定性を確認すると、中殿筋機能の実用的な評価ができます。
④ 歩行・動作分析
股関節OAの歩行で観察すべき主な異常は次のとおりです。
- トレンデレンブルグ歩行:患側立脚期に骨盤が健側へ傾く。中殿筋筋力低下が主因
- Duchenne歩行:患側立脚期に体幹を患側へ傾ける代償。関節への負荷を減らすための代償動作
- 歩幅の左右差・立脚期の短縮:患側での荷重を避けるための疼痛回避パターン
歩行分析は後方・側方・前方から観察し、骨盤・股関節・膝関節の連鎖を確認します。代償動作がどこから来ているかを見極めることが、介入ポイントの特定につながります。
⑤ 生活・ADL状況の聴取
どの動作で最も困っているか、仕事・家事・趣味の内容、1日の歩行量、靴や床環境などを確認します。「和室での生活が多い」「長時間立ち仕事をしている」といった情報が、生活指導の優先順位に直結します。
初回評価でここを丁寧に聴取しておくと、患者さんに「自分の生活をちゃんと見てくれている」という信頼感が生まれ、その後のリハビリへの取り組み意欲にも影響します。
運動療法の進め方|段階別の考え方
急性増悪期・疼痛が強い時期
炎症症状(熱感・腫脹・安静時痛)が強い時期は、関節への負荷を最小限にすることを最優先にします。この時期に積極的な筋力訓練を行うと症状を悪化させるリスクがあります。
介入の中心は次のとおりです。
- 臥位・座位での疼痛のない範囲でのROM訓練(自動介助)
- アイシングによる疼痛・炎症の軽減
- 杖の使用・荷重量の調整に関する指導
- 疼痛を悪化させる動作・姿勢の回避指導
疼痛が落ち着いてきた時期
炎症が落ち着き、疼痛が動作時のみになってきたら、筋力訓練を段階的に導入します。関節への負荷が少ない非荷重位から始め、徐々に荷重位へ移行するのが基本的な流れです。
非荷重位での訓練例:
- 側臥位での股関節外転運動(中殿筋)
- 腹臥位での股関節伸展運動(大殿筋)
- 背臥位での股関節屈曲運動(腸腰筋)
荷重位への移行例:
- 立位での股関節外転(壁に手をついて)
- ミニスクワット(疼痛のない範囲で)
- 片脚立位練習(時間を短く設定して段階的に延長)
訓練中・訓練後に疼痛がNRS3以上に増悪する場合は負荷を下げます。「少し疲れる程度」が適切な負荷の目安です。
維持・機能改善期
疼痛が安定し、筋力がある程度回復してきたら、歩行能力・ADL動作の質を高めることに移行します。
- 歩行練習(距離・速度の段階的な増加)
- 階段昇降練習
- 立ち座り動作の効率化
- 水中歩行(利用できる環境であれば)
この時期はホームエクササイズの定着が最重要課題です。外来でのリハビリは週1〜2回が限界のため、自主トレーニングをいかに継続してもらえるかが、長期的な機能維持を左右します。
臨床で特に重要な筋へのアプローチ
中殿筋
股関節OAのリハビリで最も優先度が高い筋です。中殿筋の筋力低下は歩行時の骨盤安定性を低下させ、関節への側方ストレスを増大させます。
効果的なアプローチは側臥位での股関節外転運動です。ポイントは骨盤を後傾させず、外転方向に真っすぐ挙上すること。内旋・外旋を加えることで中殿筋の前部・後部繊維を分けて鍛えることもできます。立位での片脚立位保持も有効ですが、代償(体幹の側屈)が出ないよう鏡やセラピストの声掛けで修正します。
腸腰筋
腸腰筋の萎縮・短縮は股関節OAで起きやすく、歩幅の減少・股関節屈曲拘縮の原因になります。短縮がある場合はストレッチ(腸腰筋ストレッチ)を優先し、その後に筋力強化へ移行します。
筋力強化は背臥位での股関節屈曲(SLRや膝伸展位での屈曲)から始めます。疼痛が強い時期は負荷を最小限にし、ROM維持を優先します。
外旋筋群
深層外旋6筋(梨状筋・内閉鎖筋など)は股関節の動的安定化に関与します。内旋方向への崩れが大きい患者さんでは外旋筋群の機能低下が背景にあることが多く、腹臥位での外旋運動や座位でのクラムシェル運動が有効です。
生活指導・セルフエクササイズの伝え方
運動療法と並行して、日常生活での負担を減らす指導が疼痛改善に直結します。特に伝えておきたいポイントは以下のとおりです。
- 杖の使用:健側手で持つことで患側股関節への負荷を約30%軽減できる。使うタイミング・長さの調整を指導する
- 床座り・正座の回避:股関節の内旋・深屈曲を強いる姿勢は関節への負担が大きい
- 椅子の高さ調整:低すぎる椅子からの立ち上がりは股関節への負担が増す。膝が股関節より高くならない高さが目安
- 体重管理:1kgの体重増加で歩行時の股関節への負荷は約3kg増えるとされている。過体重の患者さんには丁寧に伝える
セルフエクササイズは1回の指導で多く伝えすぎないことが大切です。私は最初に「1日1種目・1セット」から始めてもらい、定着してから種目を追加するようにしています。「できた」という成功体験を積み重ねることが、長期継続につながります。
まとめ
変形性股関節症の理学療法は、画像所見に引っ張られず、機能評価・疼痛・生活状況を丁寧に把握した上で介入方針を立てることが重要です。
- 初回評価は疼痛・ROM・筋力・歩行・ADLの5項目を軸に行う
- 運動療法は疼痛の程度に合わせて非荷重位→荷重位へ段階的に進める
- 中殿筋・腸腰筋・外旋筋群を優先してアプローチする
- 生活指導とセルフエクササイズの定着が長期的な疼痛管理の鍵になる
「画像が悪いから仕方ない」ではなく、「今の機能と生活から何ができるか」を考え続けることが、股関節OAのリハビリで最も大切な姿勢だと思っています。

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