理学療法士が押さえておきたい歩幅改善の考え方|評価指標とエビデンスに基づく介入

臨床スキル・実践知識

歩行練習をしていて
「歩行は安定してきたのに、歩幅だけがなかなか広がらない」
と感じた経験はないでしょうか。

私自身、回復期や維持期で歩行練習を担当する中で、
筋力はそれなりに戻っているのに歩幅が改善せず、
結果として歩行速度が伸びないケースを数多く経験してきました。

その中で感じているのは、
歩幅改善は“筋力トレーニングを足すこと”よりも、評価の整理が重要
ということです。

この記事では、歩幅改善を考えるうえで、

  • どこを評価するのか
  • どう仮説を立てるのか
  • どんな介入につなげるのか

を、臨床目線で整理します。


歩幅とは何かをあらためて整理する

歩幅(step length)は、左右の足が前後に入れ替わる際の距離です。
臨床では、歩行速度や転倒リスクとも密接に関係します。

実際、歩幅が狭い患者さんでは、

  • 歩行速度が上がらない
  • 方向転換や段差で不安定になる
  • 疲労しやすい

といった問題を伴うことが多いと感じます。

ただし、
歩幅=下肢筋力の問題
と単純に考えてしまうと、介入がうまくいかないことも多いです。


歩幅改善を考える前に行う評価

① 歩行観察(最優先)

私が最も重視しているのは、歩行中の「質」の観察です。

特に以下の点を見ています。

  • 立脚後期で体重が前方へ乗れているか
  • 骨盤が片脚支持中に安定しているか
  • 遊脚側が“振り出せていない”理由は何か
  • 体幹が過度に前屈・側屈していないか

歩幅が出ない患者さんでは、
「脚を前に出せない」のではなく、
「前に体を運べていない」ケースが非常に多い印象です。

② 歩幅の左右差

歩幅そのものより、左右差を重視します。

左右差がある場合、
中殿筋を中心とした支持性の低下や、
立脚側での不安定性が背景にあることが多いです。

私自身、左右差が見られる場合は
歩行だけでなく、

  • 階段昇降
  • 方向転換
  • 立ち上がり

などの動作も必ず確認するようにしています。

③ 片脚立位テスト

歩幅改善を考える際、
片脚立位は非常に有用な評価だと感じています。

見るポイントは「時間」だけではありません。

  • 骨盤が水平に保てているか
  • 体幹が側屈していないか
  • 支持脚側で“踏ん張れている感覚”があるか

片脚立位が不安定な患者さんでは、
歩行中も立脚側で安心して体重を乗せられず、
結果として歩幅が小さくなる傾向があります。


歩幅が改善しない原因の整理(仮説)

臨床では、歩幅が出ない原因を大きく分けて考えています。

① 支持性不足タイプ

  • 片脚支持が不安定
  • 骨盤が下がる、体幹が流れる
  • 歩行中に「怖さ」がある

支持性が低いと、無意識に歩幅を小さくします。

② 推進力不足タイプ

  • 立脚後期で体重が前に乗らない
  • 股関節伸展が使えていない
  • 足関節の動きが小さい

脚を出す以前に、体が前へ進めていない状態です。

③ 可動域制限タイプ

  • 股関節伸展制限
  • 足関節背屈制限

歩幅を出そうとしても、物理的に制限がかかります。


歩幅改善に向けた介入の考え方

支持性への介入

私がよく行うのは、
「歩幅を広げる練習」ではなく、
安心して片脚支持ができる練習です。

  • 軽く体重移動を伴う立位練習
  • 骨盤と体幹の位置を意識した片脚荷重
  • “崩れない位置”での反復練習

支持性が高まると、
患者さん自身が自然と歩幅を広げられるようになります。

推進力への介入

推進力が不足している場合、
「蹴る」ことを意識させすぎないようにしています。

むしろ、

  • 立脚後期で体が前に乗る感覚
  • 骨盤が前方へ運ばれる感覚

を作る練習を重視しています。

結果として、
歩幅が“意識しなくても”広がることが多いです。


エビデンスを踏まえた臨床的な考え方

研究では、
歩幅の改善が歩行速度向上や転倒リスク低下につながることが示されています。

一方で、
筋力トレーニング単独では歩幅改善につながりにくいケースも多く、
課題特異的な動作練習の重要性が示されています。

臨床的にも、
評価 → 仮説 → 動作に即した介入
を丁寧に行った方が、歩幅の変化は出やすいと感じています。


まとめ

歩幅改善を考えるうえで大切なのは、

  • 歩幅だけを見ない
  • 左右差や支持性を評価する
  • 「出せない理由」を整理する
  • 動作に近い形で介入する

という視点です。

歩幅は結果であって、目的ではありません。
評価を丁寧に行い、原因に合わせた介入を行うことで、
自然な歩幅改善につながるケースは多いと感じています。

明日の歩行評価・歩行練習のヒントとして、
少しでも役立てば幸いです。

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