はじめに
体幹機能の評価というと、静的な座位・立位での姿勢保持やMMTを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし実際の生活動作では、常に体幹が動きながら重心をコントロールしています。立ち上がり、リーチ、歩行、方向転換など、すべての動作の根底には「動作中の体幹制御」があります。この記事では、動作中の重心移動や協調性に着目し、臨床でどのように評価すべきかを整理します。
動作中の体幹評価とは
静的評価が「姿勢保持能力」をみるのに対して、動作中の評価はバランスを保ちながら身体を動かす能力をみるものです。つまり動的安定性と体幹と四肢の協調的な制御を評価することが目的です。理学療法士として重要なのは、「どの筋が弱いか」ではなく、どのように体幹が働いて動作を支えているかを観察する視点です。
動作中の体幹評価で見る3つの柱
- 重心移動のコントロール
 動作中にどの方向へ、どの程度の速度で重心が移動しているか。
- 四肢との協調性
 体幹と上肢・下肢の動きが連動しているか。
- 姿勢制御戦略の選択
 骨盤・腰椎・股関節の連動で、バランスをどう維持しているか。
重心移動の評価ポイント
前方リーチ動作
上肢を前に伸ばしたとき、骨盤や体幹がどのように反応するかを観察します。体幹が先行して骨盤前傾が起こるのか、あるいは肩関節主導で代償的にリーチしているのかがポイントです。骨盤が動かず、肩と肘だけでリーチしている場合は、体幹の安定化が不十分な可能性があります。
起立動作
離殿から立位安定までの重心移動を評価します。理想的なパターンは、骨盤前方回旋 → 体幹前傾 → 下肢伸展の順で重心が前上方へ移動する動きです。骨盤の動きが少ない場合や、体幹の分節運動が見られない場合は、腰椎・骨盤周囲のコントロール低下を疑います。
歩行中の体幹制御
骨盤の回旋や側屈、上肢の振りと体幹の連動性を観察します。歩行中に上半身の揺れが大きい場合、股関節外転筋の筋力低下だけでなく、体幹筋群のタイミング不良や非対称な姿勢制御が影響していることもあります。
協調性(コーディネーション)の観察
- 前方リーチで肩関節だけが動く場合、体幹の安定性が低下している可能性。
- 起立動作で体幹よりも先に膝伸展が起こる場合、代償動作のサイン。
このようなケースでは、体幹主導の運動連鎖が働いていないと考えられます。動作が分断的・ぎこちない場合、深層体幹筋(腹横筋・多裂筋など)の反応遅延が疑われます。
臨床での具体例
事例①:脳卒中片麻痺患者の歩行練習
非麻痺側に重心が偏り、骨盤の回旋が出にくいケース。非麻痺側の立脚期で体幹側屈が強く、上肢の振りも非対称でした。骨盤回旋を促す手技と、対側上肢とのリズム運動を組み合わせることで、体幹と四肢の協調性が改善し、歩行の左右対称性が向上しました。
事例②:慢性腰痛患者の起立動作
椅子から立ち上がる際、体幹がほとんど前傾せず、下肢主導で一気に立ち上がるパターン。体幹筋の協調性が低下しており、腹横筋・多裂筋の安定化反応が遅れていました。「骨盤を前に送る」意識づけと、分節的な体幹運動の再教育を行い、起立動作のスムーズさと腰部負担の軽減につながりました。
事例③:高齢者のバランス能力低下
前方リーチ時に上肢だけが動き、骨盤・体幹が固定されているパターン。体幹反応の遅延がみられ、代償的に足関節戦略が増加していました。軽度の骨盤前傾運動や体幹回旋運動を取り入れることで、重心移動のスムーズさが改善し、ADLでの転倒リスクが減少しました。
評価のコツ
- 「安定している=動かない」ではない(体幹は微調整しながら“安定を保つために動いている”)。
- 動作中の滑らかさ・反応の速さ・代償の有無を同時に観察する。
- 視線・上肢・下肢の連動も含めて全身で評価する。
まとめ
動作中の体幹評価では、筋力の強さだけでなく、動きの質・タイミング・協調性を重視することが重要です。重心移動のスムーズさや四肢との連動性を観察することで、より正確な臨床判断が可能になります。体幹の「動的安定性」を見抜く力こそ、理学療法士が動作分析を深めるうえで欠かせない視点です。
 
  
  
  
  
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