理学療法士がおさえておきたい体幹機能の臨床応用|歩行・ADL動作を安定させる評価と介入のポイント

臨床スキル・実践知識

体幹機能の基礎・姿勢・動的制御・筋群の働きを踏まえ、最終ゴールである「動作の安定化」に結びつける実践記事です。体幹は歩行やADL(日常生活動作)において全身の連動を調整する“ハブ”。評価を動作レベルに落とし込むことで、成果につながる介入が可能になります。


歩行・ADLで体幹が果たす3つの役割

1. 安定性の確保

歩行や立ち上がりなどの重心移動中に、体幹は姿勢を安定させて転倒を防ぎます。

2. 力の伝達

上肢と下肢の力は体幹を介して統合されます。腕振りや骨盤回旋は体幹の柔軟な安定性があってこそ成立します。

3. 姿勢変換・方向転換

体幹の回旋・側屈は方向転換や更衣などのADLを滑らかにします。


体幹機能を動作で見る評価ポイント

  1. 重心移動の安定性:立ち上がり・方向転換で体幹の動揺が過大/過少になっていないか。
  2. 体幹筋のタイミング:腹横筋・多裂筋の先行収縮や腹圧維持の有無。遅延は協調性低下を示唆。
  3. 上下肢との連動性:歩行時の体幹回旋と腕振り・骨盤運動の同期。固定過多は下肢のぎこちなさに直結。
  4. 呼吸との関係:努力性呼吸や息こらえで体幹過緊張になっていないか。

臨床事例:歩行の安定性が改善したケース

症例:脳卒中後右片麻痺・70代男性。歩行時、非麻痺側立脚期に体幹が左傾し、骨盤の安定性が低下。ドローインで腹圧維持が困難、多裂筋の収縮遅延を認めた。

介入:

  1. 仰臥位での腹圧制御訓練(呼吸同期で腹横筋活性化)
  2. 坐位での骨盤前後傾+体幹回旋の誘導
  3. 立位での重心移動訓練から歩行練習へ展開(内圧意識の持続)

結果:4週間後、歩行中の体幹傾斜が軽減。非麻痺側立脚期の安定性が向上し、方向転換時のふらつきも減少。本人は「歩くのが楽」と自覚的改善を報告。


ADL動作で見る体幹の使い方

  • 立ち上がり:股関節伸展と同時に体幹伸展筋群が協調して働く。体幹先行の過動はバランス低下を招く。
  • 更衣:上肢運動に合わせて体幹が安定しつつ適度に回旋。肩の可動性だけに依存すると代償が増える。
  • 物の持ち上げ:体幹を固定し下肢優位で実施。腹圧保持で腰部過伸展を予防。

評価結果を介入に活かす3ステップ

  1. 弱点の特定:安定性/タイミング/回旋制御などの課題を明確化。
  2. 段階的再教育:仰臥位・坐位など静的課題 → 動的課題 → 歩行へと進行。
  3. 動作連携へ統合:ADLの中で「お腹を意識」「呼吸と動作を合わせる」感覚を再教育。

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まとめ

体幹機能の評価は、最終的に「動作の中でどう活かすか」が重要です。姿勢制御・呼吸・筋活動のタイミングを統合的に考えることで、動作の安定性と再現性を高められます。体幹を“支える”だけでなく“動きを導く”視点を持つことが、理学療法士としての臨床力を一段高める鍵になります。

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