理学療法士が押さえるべきトレンデレンブルグ歩行の見方|中殿筋機能低下の評価ポイントを徹底解説

臨床スキル・実践知識

はじめに

歩行分析の中でも、トレンデレンブルグ歩行(Trendelenburg gait)は臨床で頻繁に見られる重要な異常歩行のひとつです。
中殿筋(特に中殿筋前部線維)の筋力低下が原因で生じる骨盤の左右動揺は、評価を誤ると治療方針を大きく誤ることにもつながります。

この記事では、理学療法士が押さえておきたいトレンデレンブルグ歩行の見抜き方・評価のコツ・臨床での活かし方をわかりやすく解説します。


骨盤が下がる理由を理解する|トレンデレンブルグ歩行の特徴

トレンデレンブルグ歩行とは、立脚側の中殿筋の筋力低下により、遊脚側の骨盤が下方に落ち込む歩行のことを指します。

中殿筋は、片脚立位時に骨盤を水平に保つ役割を持っています。この筋がうまく働かないと、反対側の骨盤を支えきれず、体幹が立脚側へ傾く代償が生じます。

主な観察ポイントは以下の通りです。

  • 立脚側への体幹側屈(代償動作)
  • 遊脚側骨盤の下制(Trendelenburg徴候)
  • 股関節外転筋の収縮遅れまたは出力不足
  • 歩行中の左右非対称な重心移動

トレンデレンブルグ徴候を見抜く!評価の手順

  1. 観察(Observation)
    まずは正面からの歩行観察を行います。骨盤の水平ラインを意識しながら、遊脚側が下がるタイミングをチェックしましょう。動画撮影を活用することで、わずかな骨盤の動きも可視化できます。
  2. 片脚立位テスト(Trendelenburg test)
    患者を片脚立位にし、骨盤の傾きを評価します。遊脚側骨盤が下がる場合、中殿筋の筋力低下または機能不全が疑われます。代償的に体幹が立脚側に傾くことも特徴的です。
  3. 触診・筋収縮確認
    中殿筋の触診は大転子のやや上方後部を目安に行います。収縮の有無、左右差、筋張りを確認し、筋出力を視覚的・触覚的に捉えます。
  4. 筋力評価(MMT)
    股関節外転位でのMMTを行い、左右差を定量的に把握します。3+〜4レベル以下の場合は、歩行時に骨盤を支えられない可能性があります。
  5. 代償運動の観察
    中殿筋低下により、体幹側屈や骨盤回旋による代償が生じることが多くあります。「代償が出る=使えていない筋がある」と捉え、関連筋の協調性も確認しましょう。

臨床での活かし方|治療・介入の考え方

中殿筋機能低下に対する介入は、筋力強化だけでなく運動制御の再学習が重要です。

💪 筋力強化

  • 側臥位での股関節外転運動(セラバンド使用可)
  • 立位での骨盤水平保持トレーニング
  • ステップアップ動作での荷重コントロール練習

🧠 運動再教育

  • 片脚立位で骨盤水平を意識させる
  • 鏡を使ったフィードバックトレーニング
  • 体幹と骨盤の協調運動を意識した課題動作

また、疼痛・筋緊張・関節制限などが背景にある場合は、それらを先に改善しないと筋活動が十分に発揮されません。評価と治療の連動がポイントです。


まとめ|「見抜く力」が臨床力を高める

トレンデレンブルグ歩行は、中殿筋の筋力低下や運動制御不全を反映する重要なサインです。表面的な「骨盤の傾き」だけでなく、どの筋がどのタイミングで働いていないのかを見極めることで、より正確な評価と治療につながります。

理学療法士として、歩行分析の“見抜く力”を磨くことが、臨床力を高める第一歩です。

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