階段昇降の客観的評価に使えるTimed Up and Down Stairs Test(TUDS)|方法・基準・活用のポイント

臨床スキル・実践知識

Timed Up and Down Stairs Test(TUDS)とは

Timed Up and Down Stairs Test(TUDS)は、階段昇降にかかる時間(秒)を計測して、動作能力を客観的に評価する方法です。
歩行能力やバランス、下肢筋力、方向転換能力などを総合的に反映し、Timed Up and Go Test(TUG)の階段版として位置づけられています。

TUDSは、階段昇降の「速度」「安定性」「安全性」を定量的に把握でき、転倒リスクや自立度の指標として活用できます。

評価に必要な準備

  • 階段12段(踏面25cm、蹴上18cm程度が目安)
  • 手すり(左右どちらかに設置。条件は必ず記録)
  • ストップウォッチまたはスマートフォンのタイマー
  • 安全確保のための介助者

再評価を行う際は、段数・手すり側・履物・補助具などの条件を統一することが信頼性の確保につながります。

測定方法(実施手順)

  1. 対象者を階段の下段に立たせる。
  2. 「できるだけ速く、安全に階段を上り下りしてください」と指示する。
  3. 合図と同時に計測を開始。
  4. 上りきったら方向転換し、同じ階段を下る。
  5. 下り終えた時点で計測を停止する。

計測項目は、上り+下り+方向転換を含む総時間(秒)です。
原則として「練習1回+本番1回」で行いますが、対象者の疲労やリスクを考慮して柔軟に対応します。

判定基準とカットオフ値

対象群平均値(秒)カットオフ値の目安備考
若年健常者約7〜8秒速度重視の動作が多い傾向
高齢健常者約9〜12秒13秒以上で転倒リスク上昇Zainoら(2004)などの報告
脳卒中片麻痺約15〜25秒20秒以上で自立昇降が困難動作の非対称性や手すり依存に注意
整形疾患(膝OA・THA術後など)約12〜18秒15秒超で動作不安定の可能性疼痛・可動域制限の影響あり
小児(脳性麻痺など)約10〜20秒個人差が大きい発達段階や環境により変動

一般的な目安:
・13秒以上:高齢者では転倒リスクが上昇
・20秒以上:自立昇降が難しく、介助または手すり使用が必要
・TUGテスト(12秒)との比較により、平地歩行とのギャップを把握するのも有用です。

評価中に観察したいポイント

  • 手すり使用の有無や左右差
  • 体幹の前傾・側屈・骨盤の動き
  • 支持脚の膝伸展と安定性
  • 段ごとのテンポ・歩隔・動作リズム
  • 恐怖感や呼吸の変化
  • 介助者の位置と安全確保

TUDSでは「所要時間」だけでなく、「どのように上り下りしているか」を観察することで、筋力やバランスの質的変化も把握できます。

臨床での活用方法

高齢者リハビリでの活用

退院前の自立判定や住宅改修前の階段動作評価に有効です。
カットオフ13秒以上の場合は、在宅では手すり増設や段差軽減の検討が必要です。

整形外科疾患(膝OA・THA・TKA術後など)

疼痛や可動域制限、筋力低下による動作の変化を時間で可視化できます。
手すりの使用パターンや疼痛出現段階を観察し、機能改善の経過を追跡します。

脳卒中や神経疾患のケース

上り下りの非対称性、患側支持脚の安定性を確認します。
20秒以上の場合は、実生活での自立昇降が困難な可能性があり、環境調整や介助レベルの検討が必要です。

外来・通所リハでの再評価

1分以内で測定でき、繰り返し評価に適しています。
経時的な変化(改善・悪化)の把握にも有効です。

他の評価との併用

評価法対象動作特徴
TUG(Timed Up and Go)平地歩行・方向転換TUDSとセットで使うと段差動作への発展を確認できる
10m歩行テスト速度・安定性TUDSとの相関が高く、下肢筋力低下の影響を把握しやすい
FIM階段項目自立度・介助量TUDSと併用することで「時間的評価+介助量評価」が可能

TUDSを活用する際のポイント

  • 評価条件(段数・手すり側・靴・補助具)を明確にして記録する。
  • 13秒・20秒を基準に転倒リスク・自立度を判断する。
  • 所要時間だけでなく、姿勢・バランス・動作戦略も評価する。
  • 評価結果を、住宅環境の調整・退院判定・介入目標設定に活かす。
  • 他の歩行系評価と組み合わせることで、全身機能を多面的に把握できる。

まとめ

Timed Up and Down Stairs Test(TUDS)は、階段昇降動作を「時間」で見える化できる簡便で信頼性の高い評価法です。
13秒・20秒を基準に転倒リスクや自立レベルを推定でき、短時間で実施可能なため、病棟・外来・在宅のあらゆる場面で応用できます。
動作のスピードだけでなく、姿勢や戦略などの質的評価を加えることで、より臨床的価値の高い評価が可能になります。

要点まとめ

  • TUDSは階段昇降能力を客観的に評価できる信頼性の高い指標
  • 13秒・20秒が転倒リスクと自立度の判断目安
  • 評価条件の統一と安全確保が信頼性確保の鍵
  • TUG・10m歩行・FIM階段項目と併用することで臨床的価値が高まる
  • 短時間で測定可能で、継続的な経過観察に最適

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