TUG(Timed Up and Go Test)は、臨床でよく使われる転倒リスク評価のひとつです。
一方で、カットオフ値は「◯秒以上」と一言で言い切れるほど単純ではなく、対象(疾患・生活環境・能力)によって解釈が変わります。
まずTUGそのものの測定手順や基本的な見方を整理したい方は、先にこちらも確認しておくと理解がスムーズです。
TUG(Timed Up and Go Test)とは?評価方法・基準値・臨床での活用ポイント
TUGの「基準値・カットオフ」はなぜブレるのか
TUGは、立ち上がり・歩行・方向転換・着座という複数要素の合成課題です。
同じ秒数でも、遅くなっている理由が「筋力」なのか「バランス」なのか「注意機能」なのかで、転倒リスクの意味合いは変わります。
また、対象が地域在住か施設入所か、杖や歩行器の使用があるか、測定環境や指示の出し方が統一されているかでも結果は変動します。
そのため、カットオフ値は目安として押さえつつ、臨床判断は“中身”まで読み取ることが前提になります。
全般高齢者(地域在住・施設入所)|よく引用される目安
- 転倒リスク予測のカットオフは、研究によって幅が大きい(おおむね10〜30秒台まで報告がある)
- 臨床では、13.5秒以上が転倒リスクの目安として引用されることが多い
- ただし、将来転倒の予測精度は“中等度”で、TUG単独での判断は限界がある
13.5秒という値は、地域在住高齢者の転倒予測に関する代表的な報告でよく参照されます。
脳卒中|「時間」より“どこで失速しているか”が重要
- 転倒リスクの識別として、15〜19秒あたりが目安として扱われることがある
- 慢性期では、バランス評価と併用して解釈する前提になりやすい
脳卒中では、立ち上がりの初動、方向転換、着座直前など、どの局面で不安定さが出ているかを見ると臨床判断につながりやすいです。
同じ16秒でも、「方向転換で減速している」のか「立ち上がりで手支持が必要」なのかで、介入の優先順位が変わります。
変形性膝関節症(膝OA)|痛み・立ち上がりとセットで読む
- 11〜13.5秒あたりの値が、目安として言及されることがある
- 痛みや立ち上がりの負荷が影響しやすいため、同日の疼痛状況も含めて解釈する
膝OAでは、TUGの遅れが「動作速度の低下」なのか「痛みによる回避」なのかで意味が変わります。
評価としては、立ち上がりの股・膝伸展の使い方や、方向転換での支持性低下なども合わせて見ておくと判断しやすいです。
認知機能低下(認知症を含む)|“手順の乱れ”が時間に出る
- 13秒台〜20秒前後まで、対象条件によって目安が変動しやすい
- 時間の遅れだけでなく、手順の理解や注意の逸れが結果に影響する
認知機能低下がある場合、TUGは「純粋な身体能力」ではなく、注意・理解・手順保持が混ざります。
そのため、秒数だけで転倒リスクと直結させるより、測定中の様子(指示への反応、方向転換での迷い、着座直前の不安定さ)を観察することが重要です。
パーキンソン病|カットオフは“参考値”、変動と状況で読む
- 転倒者の識別として、11.5秒が提案される報告がある
- ただし臨床では、ON/OFF、すくみ、方向転換の質、二重課題での変化も含めて解釈する
パーキンソン病におけるTUGの転倒予測として、11.5秒のカットスコアが提案された報告があります。
TUGを“転倒リスク”として読むときの共通注意点
- TUG単独の予測精度には限界がある(多面的な評価と併用が前提)
- 年齢・ADL・既往・補助具使用・環境要因を切り分けて解釈する
- 秒数だけでなく、どの局面で不安定さが出るかを観察する
バランスを併用する場合は、FBS(Functional Balance Scale)と組み合わせて読むと整理しやすいです。
関連記事:Functional Balance Scale(FBS)とは?評価の解釈とリハビリ介入への応用法
まとめ|カットオフは「目安」、臨床判断は“中身”で決まる
- カットオフ値は対象や条件で変わるため、絶対値として扱わない
- 同じ秒数でも、遅れの原因(局面)によって介入の優先順位が変わる
- FBSなどの多面的評価と併用し、転倒リスクを立体的に読む


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