はじめに|TUGテストとは?
TUG(Timed Up and Go Test)は、高齢者やリハビリ対象者の移動能力とバランス能力を短時間で評価できるテストです。椅子から立ち上がり、3m先を往復して再び着座するまでの時間を測定するシンプルな方法で、臨床・研究ともに広く使われています。転倒リスクのスクリーニングとして有効で、日常生活の自立度を判断する際にも活用されています。
TUGの評価方法
- 腰掛け椅子に座って開始
- 合図とともに立ち上がる
- 3m先の目標地点まで歩く
- 方向転換して戻り、再び椅子に座る
- 立ち上がりから着座までの時間をストップウォッチで計測
注意点
- 通常の歩行速度で行う
- 補助具(杖・歩行器)は普段通りに使用可能
- 椅子は背もたれ付きで座面の高さは約46cmが標準
基準値と転倒リスクの目安
TUGの結果は、臨床研究によりいくつかの基準値が報告されています。
- 10秒以下:健常高齢者レベル、転倒リスク低い
- 11〜13秒程度:移動能力はおおむね良好、転倒リスク中等度
- 13.5秒以上:転倒リスク増加(Podsiadlo & Richardson, 1991)
- 20秒以上:歩行やADLに介助が必要な可能性あり
代表的な研究では、13.5秒を超えると転倒リスクが高まるとされ、臨床でもよく用いられるカットオフ値です。
臨床での活用ポイント
臨床では、TUGのタイムだけで判断することは少なく、他の評価と組み合わせて総合的に判断します。
動作観察を重視
- 立ち上がりに時間がかかる:下肢筋力・体幹安定性の低下
- 歩行のふらつき:バランス能力や補助具適合の問題
- 方向転換の不安定さ:認知機能・注意配分の影響も考慮
- 着座でドスンと座る:体幹制御や前庭機能の低下
転倒リスクの把握
観察で見えた不安定場面をADLに結びつけて考えると、どんな日常動作で転倒リスクがあるかが具体的に見えてきます。
治療プログラムの立案
TUGの動作中に見えた弱点(下肢筋力低下、体幹バランス不良など)を、運動療法や環境調整に反映させます。
経時的な効果判定
はじめに測定しておくことで、期間をあけて再度評価した際に、リハビリの効果判定にも活用できます。
他の評価との組み合わせ
- FBS(Berg Balance Scale):包括的なバランス能力を測定
- FRT(Functional Reach Test):前方安定性を簡便に評価
- 6MWT(6分間歩行テスト):持久力や全身耐久性を測定
- 10MWT(10m歩行テスト):歩行速度を測定し、移動能力の指標に
TUGは簡便なスクリーニング、他のテストは詳細な補足評価として組み合わせると有効です。
まとめ|TUGの活用のポイント
- TUGは椅子から立ち上がり、3mを往復して着座するまでの時間を測定する簡便な評価法
- 13.5秒以上で転倒リスクが高まるとされ、臨床でよく用いられるカットオフ値
- 臨床では「タイム」だけでなく「動作の質」を観察し、どんな場面でリスクがあるかを分析
- 他の評価と組み合わせ、治療プログラム立案や効果判定に活用できる
TUGは「シンプルだが奥が深い評価法」であり、リハビリ臨床において欠かせない指標です。
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