理学療法士が知っておきたい歩行補助具の使い分け|杖・歩行器・シルバーカーをどう選ぶ?

臨床スキル・実践知識

歩行補助具は「とりあえず使う」ものではなく、患者の身体機能・生活環境・目的に応じて適切に選定する必要があります。

同じように見える補助具でも、構造や用途によって大きな違いがあり、選択を誤るとリスクにもつながります。この記事では、現場で使われることの多い杖・歩行器・シルバーカーについて、それぞれの特徴と使い分けの視点を整理します。


杖:移動時のバランス補助と荷重軽減が目的

杖は、比較的軽度な歩行障害に対して使われる補助具です。下肢の荷重軽減や姿勢保持、方向転換時のバランス補助として使用されます。

✅ 対象例

  • 関節疾患による痛みの軽減(例:変形性膝関節症)
  • 大腿骨頚部骨折後の荷重調整
  • 脳卒中後の片麻痺

⚠ 注意点

  • 正しい長さと握り方の指導が不可欠
  • T字杖や多点杖など、種類によって安定性が異なる
  • 四点杖などは平らにつかないと(まっすぐつかないと)グラグラするため、段差では注意が必要

ピックアップ歩行器:体重支持と安定性の確保が目的

ピックアップ歩行器は、体重支持と安定性の確保を主な目的とする歩行補助具で、筋力低下やバランス不良が強いケースに適しています。
フレームを持ち上げて前に進むため、訓練室やバリアフリーな屋内環境に向いており、在宅でも使われる場面が多いのが特徴です。

✅ 対象例

  • 大腿骨頚部骨折後などでふらつきがある症例
  • 高齢による全身筋力低下やふらつきのある症例
  • 軽度の対麻痺など、上肢支持が両側とも可能な症例

⚠ 注意点

  • 操作が難しい場合、代償的な動作パターンになりやすい
  • 段差・傾斜・狭い廊下では使用しづらい
  • 日常生活における使用可否は環境に大きく左右される

サークル型歩行器(歩行車):連続移動が可能な補助具

サークル型歩行器(歩行車)は、車輪がついており、持ち上げずにスムーズな移動が可能な補助具です。体重を預けながら連続した歩行ができ、バランス保持にも優れています。

✅ 対象例

  • 大腿骨頚部骨折後にふらつきが強い高齢者
  • パーキンソン病などの進行性疾患で歩行が不安定なケース
  • 高齢者施設などバリアフリー環境での屋内移動

⚠ 注意点

  • サークル型歩行器は日常生活では使用困難(段差・傾斜・狭い廊下などに不向き)
  • 自宅がバリアフリーであれば継続使用も可能
  • 転倒リスクがある場合、常に見守りや声かけが必要

シルバーカー:歩行補助+買い物などの日常動作サポート

シルバーカーは、歩行補助と日常動作サポートを兼ねた補助具です。歩行器と混同されやすいですが、リハビリ目的ではなく、主に高齢者の日常生活補助を目的としています。

✅ 対象例

  • 実用歩行可能だが、疲れやすさや不安定感がある高齢者
  • 日常の買い物・外出時の補助
  • 屋外での連続歩行が可能なレベル

⚠ 注意点

  • 体重支持には適さない(転倒リスクあり)
  • ブレーキ操作・坂道では十分な指導が必要
  • 転倒歴のある方には不向き

まとめ

歩行補助具は、単に「安定性を高める」ためではなく、使用目的・環境・疾患特性・身体機能に応じて適切に選ぶことが重要です。

  • 杖:バランス補助・荷重軽減(軽度〜中等度)
  • ピックアップ歩行器:ふらつきや体幹支持が必要な高齢者、対麻痺など
  • サークル型歩行器:バリアフリーな施設内での移動に有効
  • シルバーカー:体重支持には不向きだが、日常生活動作の補助に適している

現場では、「何を目的に使うか」「どこで使うか」を意識しながら評価・選定し、安全かつ実用的な移動手段としてサポートしていく視点が求められます。

歩行能力の評価に基づき、患者さんそれぞれに合った歩行補助具を選択することが、安全で自立した移動の第一歩です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました